(そういえば、冷凍庫にあんぱん寝かせてたな・・)
先週、酔っぱらった友人が夜中にあんぱんを届けてくれた。ちなみにわたしは、あんこが大嫌いである。そのことは承知の上で、友人はあんぱんを買ってきてくれたのだ。
「ここの塩パンが美味しいんだけど、それだけじゃ味にバリエーションがないから、あんぱんも買ってみた。買ってから"そういえば、あんこダメって言ってたな・・"って思ったんだけど、美味しいから食べてみて!」
つまり、心優しい友人はパン好きなわたしのために、千鳥足でパンを買ってきてくれたのだ。そして頼んでもいないのに、大嫌いなあんぱんまで付けてくれたのだ。
——こういう小さな優しさを、無下にしてはならない。よくよく考えたら、あんこのなにがダメなのか分からない。あんこといえば小豆と砂糖で構成されているわけで、わたしは決して「豆」が嫌いなわけではないのだから。
たとえば、もやしについている豆や枝豆、スナップエンドウなどは大好物である。レンチンした豆を、塩やマヨネーズといったシンプルな味付けのみでモリモリ食べるくらい、豆自体は好きなのだ。
ちなみに加工品としての豆、たとえば豆腐や湯葉、納豆なども好きであり、どう考えても「豆」が苦手なわけではない。
とはいえ、大豆と小豆は同じ「豆」ではあるが、まるで異なる種類。大豆はマメ科ダイズ属であり、"畑の肉"と称されるほど豊富な脂質とタンパク質が特徴。対する小豆はマメ科ササゲ属で、その大半が炭水化物でできている。しかし低脂肪・高たんぱく食品であることから、和菓子の代表的な素材として、なくてはならない存在でもある。
よって、「豆は好きだがササゲ属が苦手」というのが、正確な表現となるわけだ。
それにしても、チョコだの生クリームだの甘いもの全般に目がないにもかかわらず、なぜあんこだけはダメなのだろうか。こればかりは自分でもよく分からない。ただ、なんとなく青臭さを感じるあんこが、許せないのだ——。
*
ほろ酔い気分の友人から塩パンとあんぱんを受け取ると、礼を言うためにとりあえず一口ずつ食べてみた。
塩パンはたしかに美味かった。この店の名物なのだろう、大手を振って威張ってもいいくらいに、絶妙な塩味としっかりとした生地が目を見張る逸品だ。
塩パンを二つ食べた後、覚悟を決めたわたしは恐る恐るあんぱんをかじってみた。
(・・うん。あんこの味がする)
これが美味いかどうかは判断に窮するが、失礼を承知で言うならば「決して不味くはない」という感じ。とはいえ、先ほどの塩パンのようにパクパク放り込むには——。
しばらく考えてから、わたしはあんぱんを業務用冷凍庫へと封印した。
ここならば、しばらく寝かせておいても問題はない。さらに、凍らせることであんこに何らかの変化が生じるかもしれない。その結果、もしかすると「あんこが美味い」と感じる時がくるかもしれないわけで。
なんせわたしは、あんこを忌み嫌っているわけではない。願わくば、洋菓子同様「大好物に転じてくれれば・・」と考えているのだから。
そのためにも冷凍庫でゆっくり眠ってもらおう。未来への希望を見出すために——。
*
そして今日、あの"あんぱん"の存在を思い出したわたしは、業務用冷凍庫から食べかけのあんぱんを取り出した。
カチカチに凍っているパンは、齧りついても咀嚼どころか欠けもしない。ビニール袋ごとコンクリートの壁にぶつけてみたが、当然ながら破砕できない。
そこでわたしは、わが家の唯一の調理器具である電子レンジにて、カッチコチのあんぱんに熱を通すことにした。
「解凍」ボタンを押すと、しばし待つことおよそ5分。レンジからはパン生地の香ばしい匂いと芳醇なバターの香りが漂ってきた。——これは期待できる。
そしていよいよ、熱々のあんぱんと対面した。表面は熱すぎて素手では触れないほど、焼きたて(?)ホヤホヤを再現できている。では、中身のあんこは如何に——。
(・・・うん。熱いあんこだ)
可もなく不可もなく、そこには舌を火傷するほど熱々のあんこが詰められていた。それは先週、一口だけ齧ったあんことまったく同じ味がした。ただ、前回は常温で今回は高温・・という違いがあるだけで。
だが考え方によっては、これはかなりの進歩かもしれない。なんせ「不味い」とは感じなかったわけで、この調子であんこを取り込んでいけば、そのうち「普通」から「美味い」と変化するかもしれない。
何よりも、酔っぱらいながらもわたしのために「あんぱん」を買ってきてくれた、友人の優しさがあんこをまろやかにしてくれたのだろう。食べ物の美味さというのは、いつだって、ニンゲンの気持ちひとつで豪華にも質素にも変化するのだから。
(とはいえ願わくば、次回は抹茶の菓子かチーズケーキ、パンならばバターぐっしょりのクロワッサンが届くのを期待したい・・)
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