千葉県にある介護事業所の従業員から相談を受けた。
「求人を出しても人が集まらないんです」
これはどの会社にも共通する永遠の悩みである。とはいえ、正確には応募者が来ないというより、採用できる人材が来ないというべきだろう。
さらに、今のご時世「時給を上げれば人が集まる」わけではない。むしろイマドキの若者(?)はカネよりも自由を求める傾向にあり、給与が高いことよりも週休二日以上の休日の確保や、日々の労働時間の短さなどが決め手となる。
おまけに、会社としてもべらぼうに時給を吊り上げるわけにはいかない。なんせ、すでに働いている従業員との兼ね合いもあるため、どこの馬の骨かも分からない新規採用者の時給のほうが高いもしくは同等となれば、社内で暴動が起きる恐れもあるわけで。
そんなこんなで求人に関する悩みというのは、「常にストレスとなる終わりなき課題」といっても過言ではないのだ。さらにもう少し話を聞いてみると、
「うちの事業所の場所が、よくないんですよね・・」
やや諦めを含んだ残念そうな答えが返って来た。では、どれほど立地条件に恵まれていないのか?・・単刀直入に言わせてもらうと、そこは田舎の住宅街にある事業所で、最寄り駅まで徒歩30分。最寄り駅までのバスもあるが、そのバス停からも10分ほど歩くということで、公共交通機関を使って通勤するにはまったく不向きな場所にあるのだ。
自分事で考えてみても、介護職員で仮に時給が2,000円だったとしても、わたしが面接を受けることはない。最初の一か月くらいは耐えられるかもしれないが、雨の日もあれば雪の日もあり、灼熱地獄の日も凍死寸前の日も、定時までに出勤しなければならないわけで、乗り換え4回片道2時間かけて通勤するくらいならば、近場の時給1,200円の仕事を選ぶに違いないからだ。
時間というものはカネで買える場合もあるが、交通費を全額支給してもらったところで、一日の4時間を通勤時間に費やすなどまっぴらごめんである。しかも、乗りっぱなしで到着するならばまだしも、4回も乗り換えなければならないとなれば、ウトウトすることもままならないわけで。
これを睡眠時間8時間の人で考えると、睡眠と通勤で一日の半分を費やし、さらに仕事で8時間を奪われるのだから、なんのために生きているのか考えさせられてしまう。
つまり、この事業所で働く人材としてベストなのは「近所に住む人」なのだ。しかし、ただでさえ高齢化と過疎化が進み、働き手が少なくなっているところへきて介護施設というわけで、利用者も労働者も年齢層がさほど変わらない状況となっている。
無論、近隣住人へ求人募集の周知はしてあるが、言うまでもなく応募者が皆無なのだ。
ということは、車通勤でどうにかするしかないか——。
「そうなんですが、朝の上り(東京方面)の渋滞が酷くて、千葉市内から来ようにも2時間コースなんですよ。逆に、東京方面の人は東京で就職しますから、わざわざこっちへ来てはくれませんね」
なるほど!!これは驚きの事実である。交通費としてガソリン代が支給されるが、高速代は不支給とのこと。そのため、車通勤の従業員らは自腹で高速を使って出勤しているのだそう。
たしかに、朝の渋滞で下道2時間は地獄としか言いようがない。しかも、運転という緊張と集中で疲弊した2時間の後に、「さぁ、元気に働きましょう!」なんてことには決してならないわけで。
また、複数ある関連事業所からのヘルプについても同じで、朝の渋滞がネックとなり誰も応じてくれないのだそう。
(こればかりは、たしかにどうしようもないな・・)
せめてもの対策として、車通勤の場合は高速代も支給することにしてはどうか?と提案してみたが、会社としてもどこまで譲歩できるのかは微妙なところ。とはいえ、この立地条件で公共交通機関を使っての遠距離からの通勤は、失礼な言い方になるが信用できない。二か月程度ならば通い続けることもできるだろうが、さすがに半年後には在籍していないのではなかろうか。
はたまた福利厚生を充実させたところで、近隣住人以外でここへ通うとなれば「通勤」のハードルが高すぎるゆえに、採用面接にすら訪れる者は少ないだろう。
テレワークだのノマドワーキングだの、場所に囚われない働き方がもてはやされているが、特定の場所へ行かなければ仕事にならない職種があることも忘れてはならない。そしてその場合、労働者にとっては「通勤も含めて仕事」となるわけで、駅チカどころかバスを利用しなければたどり着かない陸の孤島へ、好き好んで出勤する変わり者は少ない。
こうなると、恒常的な働き手不足に見舞われることは必須で、求人に頭を悩ませるレベルが他の企業と比べてもあまりに高すぎることになる——。
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どんよりとした空気の中、求人が来ない切実な悩みを聞きながら、慰め程度の助言をしつつ電話を終えたわたし。あぁ、一人で働くってラクなことなんだな・・と改めて実感するのであった。
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