眠り姫  URABE著

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——私は、眠り姫にでもなったのかしら。

気が付くと深夜0時、なんと私は20時間も眠っていたらしい。アイマスクのせいで、寝ている間はずっと真っ暗闇。おかげでいつまでたっても夢の世界をさまよっていたんだ。

安眠のお供であるアイマスクをゆっくり外すと、横たえていた体を起こそうと全身に力を込めた。

(え、起きられない!?)

確実に目は冷めているのに、金縛りにあったかのような身体拘束を感じる私。これはいったい、どういうこと?!

 

——まぁいっか。

どうせ深夜なんだから、今さらなにをするにも遅すぎる。仕事だって、この時間に返事をしたところで先方が読むのは明日の朝。だったらもう少しゆっくりしよう。

そのうち解けるであろう謎の金縛りに身を委ねながら、私は再び眠りに就いてしまった。

 

——朝?

アイマスクをしていなかったせいで、ブラインドから差し込む朝日の光で目が覚めた。たしかさっき0時だったから、今は6時くらいかしら。

恐る恐るスマホに手を伸ばすと、なんと昼間の3時だった。いったい何時間私は眠っていたのよ。水も飲まずトイレにも行かず、ただひたすら眠り続けるなんて、よっぽど疲れているんだわ。

 

それにしても体が重い。鋼鉄の鎧をまとっているかのように、起き上がりたくても体が言うことを聞かないのだ。横を向いたり寝返りをうったりするのが精一杯。何もしていないのにこんなにも体が疲れるなんて、なぜ——。

そんなことをぼんやりと考えながら、夕方の日差しへを変化しつつある熱量をブラインド越しに感じる私。さすがにそろそろ起きなければ、仕事も溜まっているはず。

 

(・・・え)

そして本格的に起き上がったのは、夜の23時過ぎだった。力を振り絞るというより、私の中に存在する正義感と社会性を総動員させて、その勇気と義務感だけで立ち上がった気がする。

今日がたまたま日曜日だったからよかったものの、これが平日ならば恐ろしいことになる。明日からは会社へ行かなければならないし、ちゃんとしなきゃ——。

 

簡単にメールチェックを済ませると、冷たい水で喉を潤しソファにもたれかかった。そしてスマホをいじりながらいつの間にか眠ってしまった。

 

——あれ、もう朝かしら?

アラームが鳴る前に目が覚めた私は、床へ落としてしまったスマホに手を伸ばした。そして画面を見て驚いた。ウソでしょ、夕方の4時だなんて・・・。

たくさんの不在着信とLINEやメールの未読の数字が突き刺さる。でも怖くて開くことができない。

 

(いったい、私になにが起きているの?)

考えたところで答えは出ない。ただ、会社を無断欠勤してしまったことは事実。今さらどんな言い訳をすればいいのか、さすがに思いつかない。どうしよう、本当にどうしよう——。

そう思いながら、私はまた深い眠りへと落ちていった。

 

次に目が覚めたとき、私はもうスマホも時計も見なかった。見たところでどうしようもないし、外が真っ暗であることからも夜だということは分かる。

なぜアラームで目が覚めなかったのか。ここ数日で十分すぎるほど眠っているのに、なぜこんなにも眠いのか。そしてなぜ、起きようとしても体が動かないのか。考えても分からないし、考えたくても思考が停止しているかのように、頭が回らない。

そういえば今日って、何月何日なんだろう。私って、なにしてるんだろう——。

 

LINEの未読が100を超えた。未読メールも38通ある。不在着信は・・・。だけど今は、誰とも話したくないし関わりたくもない。

今はただ、一人で沼の底まで沈んでいくことが心地いい。無理に重力に逆らう必要なんてない。いつまでもこのまま、行きつくところまで沈んでみよう。

 

 

こうして人は病んでいくのである。彼女は、もはや一人では病院すら行くことができない。「病は気から」という言葉があるが、気持ちを強く持つことで治癒する病気というのも、ないとは言い切れない。

しかし、適切な治療を受けることで治癒あるいは寛解する症状もあるため、「おかしい」と思ったら医療機関を受診する意識(勇気)を持つべきだろう。

 

「普通じゃない」とか「いつもと違う」といった微妙なシグナルこそが、病気を示す初期症状なのだから。

 

Illustrated by 希鳳

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