久しぶりに会った友人は、なんとなくシュッとしていた。元からスリムで引き締まったフォルムなので、「痩せた」という表現は相応しくない。だがとことなくキリッと感じるのだ。
(あ、着ている服だ!)
肩幅のある彼が、ジャストフィットのジャケットと細身のパンツというコーディネートだったため、この組み合わせがなおさらキリッとした雰囲気を醸し出していたのだ。
・・そういえば、高橋一生に似ているイケメン高学歴の後輩がいる。だが、そのポテンシャルを台無しにするほどの、究極のダサさを兼ね備えているという残念なオトコである。
しかしよくよく考えると、「アイツも痩せていれば、今よりダサさは緩和されるだろう」という事実に気がついた。
ようするに、顔面なんてものは「個性」で一蹴できるほど、ヒトの好みも評価も千差万別なのだ。
ところが、フォルムに関してはごまかすことができない。さらに、足の長さや顔の小ささといったパーツに至っては、どう頑張っても変えることができないわけだ。
しかし、痩せることや引き締めることは誰にでもできる。そう、誰もが「カッコいいフォルム」を手に入れることができるのだ。あとは本人にその気があるかどうかの話で。
そう思いながら「今日の服装、似合ってるよ!」と友人に告げると、それは前から着ていた服であり、特に代わり映えしないものであった。
——ということは、髪型か?いやいや、坊主に近い短髪は常に安定した長さを保っている。では、彼になにが起きたというのか?!
不思議に思っているわたしに向かって、友人の妻がこう尋ねてきた。
「どこか変わったと思う?」
「うん、明らかにどこか変わった」
「へー、どこだと思う?」
「んー、どこだろ。顔のどこか・・・眉毛?」
「そう!アタリ!!」
確信は持てなかったが、髭も生やしておらず鼻毛が出ているわけでもないオトコの顔面で、整形以外にどこか手を加えることができるとしたら眉毛しかない。
とはいえ、これまでどんな眉毛の形をしていたのかも覚えていないが、可能性として眉毛しかなかったのでそう答えただけなのだが・・。
わたしはすぐさま友人の眉毛を確認した。たしかに、遠目から見ても顔のパーツのバランスとして、最適な形状とポジションを誇示している。さらに毛穴を覗けるほどグイッと顔面に近づくと、眉毛の秘密について調査した。
(・・なるほど、眉下の部分と眉尻の角度が明らかにプロ仕様になっている。さらに眉毛の長さも揃っているため、毛の断面が一定の黒さを強調しているのだ。そして何より、小鼻と目尻と眉尻が一直線になっており、これこそが美の黄金比率というやつか!)
これは「お見事」の一言に尽きる。どこか印象が変わった、しかも、好印象に変化したわけで、それがこの眉毛のからくりだったとは驚きである。殊に男性はメイクをしないので、手を加えたところで髪型か髭の有無という程度だろう。
ところが、眉毛の黄金比率を具現化したところ、こうも見事に顔面偏差値を上げてくれるのならば、どう考えたってやらない手はない。
それにしても、たった数ミリの変化が顔の印象を大きく変えるとは、人間ってやつはなんと繊細な生き物だろうか。
*
帰宅するとすぐに、わたしは鏡を手に眉毛の手入れを始めた。アートメイクが入っているので、それらをベースに不要な眉毛を伐採したり引っこ抜いたりと、かなり長期間放置していた荒地を整備してやった。
荒地といえば、森林の手入れをしないと、下流域で行われている養殖業に影響が出る。また、日当たりが悪くなることで樹木の育ちも悪くなる。そのせいで、土地がやせ細り土砂崩れが発生するなど、土砂災害の元凶となってしまうのだ。
これは眉毛も同じである。放っておけばボサボサの雑草でしかないが、黄金比率に沿って整えるだけで、引く手あまたの肥沃な土壌が誕生するのである。
多くの人間から称賛を受ければ、本人も悪い気はしない。「では、肌の手入れをしてみよう」「次は、表情も改善してみよう」という具合に、眉毛を意識することで自分自身の成長や向上にもつながるのだ。
なお、林野庁はこう述べている。
「木材を有効利用することで『植える→育てる→収穫する』という森林のサイクルがうまく循環し、その結果、林業の生産活動が活発になり、森林の持っている様々な機能も十分に発揮されるようになる。」
つまり、眉毛を整えることで顔面のサイクルが好循環し、対人関係が活発になり、本人が持っている様々なポテンシャルを十分に発揮することができるのだ。
——眉毛とは、宝が眠る未開拓の森林なのだ。
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