もしも戦闘に巻き込まれた場合、もっとも恐ろしいのは「武器を失ったとき」だ。
素手で戦うならば力やスピード、そして技術と経験がものを言う。だが、そこに棒や刃物が加わったならば話は変わる。さすがに生身の人間が武器相手に戦うには、骨も筋肉も皮膚も何もかもがモロすぎるからだ。
それでも、どうにかして武器になるものを手に入れられるのならばまだいい。たとえば偶然、野球バットやゴルフクラブが落ちていたならば、それらを手にして戦いに挑むことができる。
とくに相手が刃物で、自分は長さのある武器を入手できたならば分がある。しっかり握り込んだ刃物をブンブン振り回したところで、わたしに届かなければ意味がないからだ。
とはいえ、このような子供だましで対応できるようなシチュエーションならば、「戦い」ではなく「喧嘩や揉めごとの延長」だろう。実際の戦闘で刃物を振り回す可能性は低く、むしろ今ならばドローンやラジコンのように、遠隔操作で攻撃のできる装置を使用するはずである。
そうなれば、戦闘訓練の「せ」の字も知らないわれわれ一般人は秒殺されるだろう。
「そんなの、アニメや映画での話だよ!」
そうやって鼻で笑う日本人は多い。戦争など対岸の火事であり、まさか我が国が攻め込まれることなどありえない!と、高をくくっているのだ。
だがわたしは「日本が攻撃されない保障など、どこにもない」と考えており、常日頃から有事に備えている。ところが、見ての通り気力は十分なのだが、実際に戦うとなれば何をどうすればいいのかサッパリ分からない。
それでも自分なりにシミュレーションしたところ、もっとも重要なことに気が付いたのである。重要というか、こうなったらそれはすなわち「死」を意味する状況であることに、自ずと気付いてしまったのだ。
その状況とは「弾切れ」である。
「戦闘中に弾がなくなったら、そりゃやられるでしょ」
いやいや、そんな単純な話ではない。たとえ目の前に火薬の山が積まれていたとしても、装填の仕方が分からなければ、それはすなわち「無い」のと同じなのだ。
とくに銃は、火薬の爆発により推進力が生まれるわけで、銃身や機関部が簡単に壊れたり開放できたりしては困る。そのため、弾の装填・脱砲の仕方を知らなければ、どれだけ素晴らしい銃を持っていようが、宝の持ち腐れなのだ。
つまり、どうやったら銃に弾を込められるのか、そして弾切れとなったらどうやって排出し、新たな弾を込めればいいのかを知らなければ、最新型の銃と一億発分の弾を渡されたとて、やられるのは時間の問題である。いや、瞬殺されるだけである。
この不安を払拭するべく、わたしは北海道恵庭市にあるGunTREX(ガントレックス)を訪れた。なんせ、レンジオーナーの加藤直樹氏は元陸上自衛隊軽火器教官を務めた方であり、2004年のイラク派遣の第一陣として参加した経歴の持ち主である。
そして自衛隊を定年退職した2018年の夏に、退職金を叩いて「自主トレ型エアーガン練習施設」となるGunTREXをオープンさせたのだ。
自衛官時代に、アメリカへの留学や海外出張を数多くこなしたオーナーは、島国日本の内情だけでなく世界基準の視野を持っている。つまり、
「この人に聞かずして、いったい誰に『弾の装填・脱砲の仕方』を聞くというのか!」
ということである。
というわけで、わたしは早速オーナーにモデルガンによる弾の込め方と排出の仕方を教わった。
(ヤバッ。こんなの知らなきゃ絶対に装填できないじゃん・・・)
そもそも、弾を拳銃なり小銃なりにセットしたところで、セーフティー(安全装置)がかかっていたり、装填(ロード)していなかったりすれば、その銃は単なる「金属と樹脂の塊」である。
よって、どう頑張っても装填できなくて引き金も引けない場合は、もはや全力で逃げるしかないのだ。いや、全力で土下座をして靴でも舐めて、全力で命乞いするしかないのである。
「こうやって、小指と薬指の間に空になった弾倉(マガジン)を挟んだ状態で、新たなマガジンを挿入するとツウっぽく見えますよ」
オーナーが、さらりとプロっぽいしぐさのアドバイスをくれた。
たしかに、空っぽのマガジンを地面に落とすわけにもいかないし、かといってポケットにも入らない。そうこうするうちに敵の襲撃に遭うかもしれないわけで、さっさと弾をセットして準備を完成させたいところ。
そんな緊迫した状況でも、こうやって右手の指に挟むことで、しっかりとマガジンをセットすることができるのだ。これさえできれば、わたしも一目置かれるかもしれない――。
*
本番は9月、ネバダ州にある射撃施設で実銃を撃つ予定のわたしは、とにかく、空(カラ)のマガジンを小指と薬指で挟むことだけは忘れないようにしようと誓った。ほかにも、拳銃の弾の込め方・抜き方のプロっぽいやり方を習ったので、こちらも言われた通りに実践しようと思う。
標的のど真ん中に当たるかどうかは、これらの準備動作が完璧にできてからの話であり、ここを怠ったのでは10点圏を撃ちぬいたところで、まだまだ半人前である(自分調べ)。
銃を構えて引き金を引いたところで、ターゲットに当たらなければ意味がない。だが弾を込めたり排出したりするのは、知っていれば確実にできることであり、射撃の腕よりも重要な行為といえる。
万が一のとき、急に銃を手渡されたアナタは、弾を込めたり引き金を引いたりすることができるだろうか。「いざとなったら、自衛隊が助けてくれるから関係ない!」などと、他人事のような甘ったれた戯言は通用しない時代であることに、そろそろ気付くべきだろう。
「休むときは、銃床は肩につけたままで銃口だけ下に向けるといいよ」
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