赤坂には意外と足つぼマッサージの店があるようで、道を歩いていても「足」の看板を目にすることが少なくない。
今回は、前回の店とは別のところを訪れてみた。距離にして数百メートル、目と鼻の先にある店舗だが、台湾式の足つぼマッサージということで水面下ではライバル同士なのかもしれない。
そして、こういった店は「初回割引サービス」がつきもの。今回も500円引きの恩恵を受けられるとあり、次の予定までの時間調整としてこの店を選んだのだ。
まるでビニールハウスの入り口のような、マグネット式のビニールカーテンでできたドア(?)の取っ手を握ると、そっと開けてみる。
それに気づいた受付の女性が、カウンターから入り口のほうへ慌てて出てきた。
「20分後ナラ、ダイジョウブ」
おぉ、ネイティブだ。これは期待できそうである。
こうして、近所をウロウロとパトロールしてから、再びビニールハウスのドアを開けた。
「ドウゾ、ココヘ座ッテ」
温かい茶をもらい、しばし待つことに。その間、前の客が使った施術台を掃除し、新たに準備をしていた。
それにしてもこの店は、スタッフ同士の連携が恐ろしいほどスムーズである。
客が来た→施術台の準備→使用済みのタオル類を撤去し、新しいタオルを設置→足湯の準備やタイマーのセット・・・といった流れを、数人のスタッフが言葉を交わすことなく、バケツリレーの如く見事にフォローし合っていたからだ。
しかも、彼ら全員が施術中にもかかわらず、ちょっとした隙を作っては、一瞬にしてサッとバケツを手渡していた。
(仕事というか、チームプレーってこういうことだよな)
面倒だから見てみぬフリをしたり、仕事量を増やしたくないから気づかないフリをしたりと、自分のことしか考えない労働者が多い中、完璧なチームプレーでスムーズな顧客対応をみせるこの人たちは、施術以外の意味でも「プロ」である。
そんなこんなで、わたしは施術台へと案内された。
「痛カッタラ言ッテクダサイ」
お決まりのセリフとともに、足つぼマッサージがスタート。前回の反省も兼ねて、今回は痛かったらすぐに告げる覚悟を持って挑んだ。
しかし、一発目の指圧ですでにお手上げだったが、それを口にできるほど強靭なメンタルは持ち合わせていない。そのため、またしても涼しい顔で脇汗ぐっしょりかきながら、痛くないフリを続ける時間が始まってしまった。
「ココ、痛イデショ?」
施術者も、明らかに「痛い」のを分かった上で、ものすごく痛いツボをグリグリ押している。そこで「いまだ!」とばかりに、わたしは笑顔で「ちょっと痛いかな」と答えた。
「ココハネ、肝臓」
なんと、圧をゆるめるのではなく、「肝臓が疲れている」ということを教えてくれたのだ。
「痛かったら言ってください」の意味は、体のどの部分が疲れているのかを教えてあげるから、痛かったら言ってね・・という意味だったのか――。
「ココモ痛イ?」
そこは胃腸だそう。そして次々に痛い箇所と対になっている部分を教えてもらった。首、腰、腎臓、そして心臓まで。
わたしのカラダは、どこもかしこも疲弊しまくっているようである。
「ココモ痛イデショ?」
親指の腹を押しながら、施術者であるお兄さんが尋ねる。しかしそこは、まったく痛くない。むしろ痛みから解放されて気持ちよさを感じていたところで、この状態が続けば仮眠できるとまで感じていたところ。
不思議に思いながら、本日初となる「痛くない」旨を伝えたところ、やや驚いた表情でこう答えてくれた。
「ココハ脳、アタマデス」
なんと!!人間において最も重要な器官である脳が、疲れていないだと!?よりによって、本来もっとも疲れていなければならない部分が、まったくもって疲れていないとは、まるでわたしがバカであることを表しているみたいじゃないか!
いや、しばらく指圧されるうちに痛みが現れるのかもしれない。全神経を親指の腹へ集中させて、痛みが訪れるのを待った。
(ダメだ、全然痛くない・・・)
*
内臓から関節まで、全身が疲労困憊と思われる状態だったが、脳みそだけは元気一杯!という微妙な結果を突き付けられて、本日の足つぼマッサージは終了したのである。
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