人間の寿命が延びている昨今において、老後は年金で悠々自適などという夢物語は、脆くも崩れ去った。
とはいえ、年を取れば身体的な制限が増えると同時に、流行り廃りに敏感ではなくなったり、あらゆる欲が低下したりと、必然的に無駄な出費は減るもの。
その反面、医療費だの介護費だの、高齢に伴う避けられない出費というものが発生するわけで、カネの心配をせずに暮らすのはなかなか難しい。
そこで、人生をギリギリまで謳歌したい高齢者は、カネを稼ぐために社会へと押し戻されることになる。
ある意味、究極の自給自足とでも言おうか。血縁による関係性が薄れてきた現代では、相互扶助の考えは形骸化し、老いも若きも生活費を捻出するためにムチ打たれる時代となったのである。
・・・脅しはこのくらいにしよう。
では企業で働く高齢者にとって、何かいいことはないのか?というと、今年の4月からちょっとした変化があった。
これまで、65歳未満で老齢厚生年金を受給しながら企業で働く場合、給与の金額によっては年金がカットされてしまうという、非情な待遇を強いられていた。
しかし2022年4月より、この上限が上がったのだ。
これまでは、年金と給与とを足して「28万円」を超える場合は、年金の一部または全額が支給停止となっていた。
たとえば、年金が10万円で給与が26万円の人は、合計すると36万円となるため年金が4万円カットされていたのだ。
長い年月をかけて保険料を強制搾取…いや、納付し、ようやく受給の権利を得た年金なのに、なぜ給与の額によっては支給停止されなければならないのか。
それでいて、年を取ってもドンドン働けとは、あまりに乱暴ではなかろうか。
そんな声が届いたのだろう。今年の4月からは、年金と給与とを足して「47万円」以下ならば、年金はカットされないこととなった。
そのため、先ほどの例を当てはめると、年金10万円+給与26万円=合計36万円の人は、年金10万円を全額受給できるのだ。
年金と給与の合計が47万円ということは、質素な贅沢が可能だろう。大盤振る舞いとまではいかなくても、決して虚しい生活にはならない。
さらにポイントとなるのは「年金+給与=47万円」という部分だ。
つまり、副業として個人で習字を教えたり、たこ焼き屋を営んだりすることで収入を得ていても関係ない。あくまで、企業で雇用されて支払われる賃金の額と、年金月額とを足して47万円かどうか、という部分で判断されるわけだ。
株の配当金で一億円稼いだとしても、年金10万円で給与が26万円ならば、年金は全額受け取ることができるのだ。
働き方改革により「副業」が推奨されるようになった。そのため、労働者として企業に雇用される副業と、業務委託やフリーランスのように自分自身が事業主となって収入を得る副業と、二種類の働き方が選べるようになった。
しかし、未だに終身雇用の幻想が根強い日本人にとって、個人事業主という働き方はハードルが高い。そのため副業の働き方も、労働者として企業に雇用される方法を選ぶ人が多いだろう。
そうなると、雇用保険や社会保険への加入が義務付けられるため、とくに在職老齢年金の制度については知っておいて損はない。
ちなみに社会保険料について、これまた面白い仕組みになっているので触れておこう。
まず、厚生年金については70歳までしか保険料の徴収は行われない。そして健康保険は、75歳から後期高齢者医療制度へ自動的に移行するため、75歳以降は健康保険料の徴収は行われない。
しかし、75歳以上の法人役員やフルタイム労働者、一定労働時間以上のパートタイム労働者も多数存在するわけで、彼ら彼女らの社会保険はどうなるのだろうか?強制的に離脱となるのだろうか?
・・・答えは「加入し続ける」だ。
その理由は、保険料の徴収はなくとも「年金の支給停止の計算に反映されるから」だ。
75歳以上で社会保険料の徴収がない人でも、年金+給与が47万円を超える場合は、超えた金額によって年金が一部または全額支給停止となる。
何歳になろうが、労働者として賃金を、または、役員として報酬を得ているうちは、年金カットの監視からは逃れられないのである。
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本稿は一般向けのコラムのため、用語が必ずしも正しくないことをご承知おき願いたい。
なぜなら、年金用語を適切に使用すれば、読む気が失せるからだ。
たとえば文中で「年金」といっていたのは、正確には「老齢厚生年金の基本月額」であり、基本月額とは「加給年金を除く老齢厚生年金の報酬比例部分の月額」のことである。
そして「給与」といっていたのは「総報酬月額相当額」であり、その月の標準報酬月額とその月以前の一年間の標準賞与額の合計を12で除した額のことである。
…こんな小難しい表現を使われたら、そもそも知ることすら面倒になるだろう。
よって、正確な詳細を知りたい場合は、日本年金機構の「在職中の年金(在職老齢年金制度)」を参照してほしい。
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