「思い込みは恐ろしい」などという常識は、言うまでもなく誰もが理解している。
しかし、思い込んでいる自覚がないのに、じつは勘違いしている場合がある。そのため、悪気もなく無意識に「間違った状態」を遂行していたりするのだ。
たとえば「浅草で待ち合わせしよう」と言われたら、台東区にある浅草だと誰もが思うだろう。
「赤坂でご飯食べよう」と言われた場合、港区にある赤坂だと信じて疑わないだろう。
いずれも「浅草もしくは赤坂で、待ち人と落ち合うはず」と考えるに違いない。
それと同じ感覚で、わたしは青山にある体育館で試合があると知り、同じ港区ならば参加しない手はない!と思い、さっそく申し込みを済ませたのだ。
しかもラッキーなことに、今まで試合をしたことのない対戦相手の名前が並んでいる。おまけに参加人数も多いし、これはとても楽しみである。
(ところで、港区に記念体育館があったなんて知らなかったな)
まぁわたしごときが知っていることなど、たかが知れている。世間は広いわけで、日々勉強である。
そしてしばらく経ったある日。試合当日の夜に食事会の予定が入ることとなった。
試合後のため体重の心配もない。場所も港区内ということで、一度帰宅してからでも間に合いそう。
とりあえず、青山記念武道館から六本木ヒルズまで、どのくらいの移動距離なのかをGoogleマップで調べた。
――346キロメートル
(・・・?)
車で4時間、電車でも3時間かかるらしい。
(どういうことだ?会場の名前を間違えたか?)
ためしにGoogleマップで「青山記念 体育館」と入力してみると、1.9キロの距離に体育館が存在する。ここならば車で5分足らず。
なるほど、わたしの記憶が間違っていたのだ。青山記念武道館だと思っていたが、実際は「青山学院記念館体育館」だったのだ。
わたしが試合にエントリーをした「ブラジリアン柔術」という競技は、柔道やレスリングと同様に畳あるいはマットで試合を行う。
そのため、会場となる場所は武道館であったり、総合体育館内の武道場であったり、あるいは体育館内にレスリングマットを敷いたりと、様々なパターンがある。
今回わたしは、ぱっと見で「武道館」と勘違いしてしまったようだが、どうやら「体育館」が正解だったらしい。
念のため、主催者のサイトで会場名を確かめておこう。ほぼ間違いないだろうが、万が一のためにも再確認をしておいて損はないからだ。
そして試合会場を確認したわたしは、目から鱗というか度肝を抜かれたというか、むしろ軽い吐き気に襲われた。
(・・・あ、青山記念武道館で、合ってる)
さらに、所在地の住所を見て倒れそうになった。なんと、「愛知県半田市青山」と書かれているじゃないか・・・。
よくよく考えれば、青山学院記念館体育館はおかしい。青山学院大学の青山キャンパス内にある体育館であり、試合会場として使用するにはちょっと異質である。
とはいえ、調べてみると意外や意外。大相撲の夏巡業や、Bリーグの「サンロッカーズ渋谷」のホームゲームを開催しているのだ。
(ということは、ここで柔術の試合が行われる可能性が、ないとは言えないのか・・・)
いやいや、今回は違う。愛知県の知多半島にある、青山記念武道館こそが試合会場なのだ。そのような武道館が、この世にたしかに存在するのだ。
試合後の食事会など、間に合うはずもない。それどころか、自宅から350キロも離れた場所へ、「近所だから」という勘違いで試合に行くなど、まったくもって想定外。
だがこれも、すべてわたしの思い込みによるもの。青山といえば東京都港区青山だと、決め込んだわたしが悪いのだ――。
*
そんな矢先、試合前日に「帯授与式」が行われることとなった。
そしてわたしは、紫帯から茶帯へと昇格することが決まった。
そのおかげで、カテゴリー変更からの対戦相手不在のため、青山記念武道館での試合はキャンセルとなったのだ。
こんな偶然はもう二度と訪れないだろう。
今回のような思い込みや勘違いをしないよう、とくに「地名」には十分気を遣うことを、心に誓ったのである。
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