日本で働くほとんどの労働者が、そして事業主すらも気づいていないのではなかろうか。新型コロナの影響で支給された休業手当の補填として、一躍有名になった「雇用調整助成金」のブーメランが、ついにもらった側へ跳ね返ってくることが決定したのを。
月刊社労士の2月号をパラパラめくっていると、完全にキャッチーな小見出しが目に留まる。
「雇調金等の支給5兆円超、積立金はほぼ尽きる」
そうでしょうな。以下、抜粋。
コロナ禍における雇用維持に大きく貢献してきた雇用調整助成金等の支給実績は、令和4年1月時点で5.2兆円を超えた。
(中略)
財源である雇用安定二事業の資金残高は令和2年度末で枯渇し、二事業への貸出を行ってきた失業給付等の積立金もほぼ尽きる。
詳しい説明は割愛するが、雇用保険の給付のために貯めていた資金が枯渇したということだ。実際には、雇用保険内部で財源の自転車操業を続けてきたが、どうにもこうにも回らなくなったという現状。
国庫負担金といって国が負担している部分もいくらかあるが、雇用保険のほとんどが、事業主と労働者が負担している「保険料」で賄われている。
とはいえ、あれだけバンバン雇調金を出せば、そりゃ財源も枯渇するだろう。そんなことは2年前から明らかだったわけで、今さら騒ぐ話でもない。
しかしいよいよ、来年度から保険料の引き上げが決定したのだ。しかも段階的に保険料を上げるため、労働者の賃金から雇用保険料を控除する際の給与計算には、注意が必要となる。
まず、労働者に影響が出るのは今年の10月からだ。そこまでは現状維持のため労働者の給与に影響はない。しかし10月からは現状の0.3%が0.5%に上がることで、総支給額30万円の人ならば、900円だった雇用保険料が1,500円になるため、若干とはいえ手取りは減るだろう。
さらにかわいそうなのが事業主サイドだ。
雇用保険は大きく二つに分けられる。一つは、離職者がハローワークで手続きをすると受給できる「求職者給付」や「教育訓練給付」といった「失業等給付」。もう一つは、雇用調整助成金など助成金関係のくくりとなる「二事業」とで構成されている。
そのうち「二事業」の財源は事業主負担の保険料で賄われており、今年の4月から早速、0.3%から0.35%へと引き上げられる。
さらに「失業等給付」の方も、10月からは現状の0.1%から0.3%へと引き上げられる。つまり、事業主の雇用保険料引き上げは4月から敢行され、10月にはさらに増額されるわけだ。
事業主がいったい何をしたというのか。雇調金をばら撒いたのは、おっと失礼、新型コロナ特例を延長し続けたのは、国の判断ではなかったのか。
あまりに「事業主へ責任を押し付ける形」となっているこの件について、おかしいと感じる政治家はいないのだろうか。そこが最大の謎である。
ちなみに、育児休業給付金も雇用保険から出る給付だが、こちらについてはこれまで同様に労使ともに0.2%を維持することとなった。しかし男性の育休促進を推進する流れにあって、支出が膨らむ可能性は大いにある。相互扶助とはいえ、費用負担が増加するたびにコッソリ保険料を上げられてはたまらないわけで、こちらも今後の動向に注目したい。
以上をまとめると、一般の事業(農水・清酒、建設の事業を除く事業)の雇用保険料率は、令和4年4月から9月までは0.95%、令和4年10月から令和5年3月までは13.5%となる。
労働者負担は上半期0.3%、下半期0.5%に対し、事業主負担は上半期0.65%、下半期0.85%となる。
ちなみにこのパーセンテージは、交通費や残業代、賞与、各種手当を含む賃金総額に乗じる割合。言わずもがな、所得再分配の性質を持つため、たくさん稼いだらたくさん納付しなければならないわけだ。
雇調金を受給して喜んでいる事業主・労働者がいたら、今一度、雇用保険料の財源について知ってもらいたい。保険料の引き上げは今後も続くと予想されるが、なぜそうなるのかを考えてみてほしい。
決して雇調金の受給が「悪」ではない。だが、さらに有効で建設的な使い道もあるのではないかと思うのだ。
サムネイル by 希鳳
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