言葉というか表現というのは不思議なもので、同じ意味でも言い方を変えるとまったく異なるイメージに変身する。
「デブ」というと悪口だが、「ふくよか」だと悪くない。
「目が小さい」は悪口だが、「つぶらなお目め」だと悪くない。
ダイバーシティだかなんだか知らないが、とにかく差別につながる用語や相手が不快に感じるワードは、控えなければ袋叩きに合う世の中。
個人的には、言葉の意味自体が差別につながるというより、悪意を持ってその言葉を使うことが差別につながるだけで、事実を表現することになんら差別は存在しないと思うが。
まぁこういうのも一種の揚げ足取りだろう。
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友人で美容師の志麻(仮名)は、ある層の顧客に絶大な人気を誇る。どの層かというと40代以降のマダム層だ。マダムというと語弊があるが、アラフォー以上の女性陣から抜群の支持を得ている。
女性に対して「中年」や「おばさん」という言葉をつかうと十中八九嫌われる。だが「ミドルエイジ」「お姉さん」ならばご機嫌を保てる。
やはり年齢に関する部分はナーバスな話題でもあるので、会話では気をつけなければならない。ちなみに私は相手に年齢を聞いたことはない。なぜならどうでもいい情報だから。
そしてミドルエイジのお姉さんたちに共通する悩みは、「更年期障害」と「白髪」だ。おっと、これも言い換えなければならない。つまり更年期は「ヴィーナス期」、白髪は「グレイヘアー」だ。
ミドルエイジのお姉さんたちの悩みは、ヴィーナス期における体調不良と、グレイヘアーが目立ちつつあること。
その悩みを解消できる美容師が志麻なのだ。もちろん体調不良は専門外だが、グレイヘアーについては奇跡的なセンスとテクニックを披露するから驚き。
「白髪を染めて黒くするんじゃなくて、白髪を生かすというか。だから白髪ぼかしって表現してる」
SNSでも「#白髪ぼかし」で検索する女性は多いらしい。たしかに自分事で考えると、白髪という忌々しいワードで検索すれば正しくヒットするので、情報収集としては確実。だが共有PCや共有タブレットで検索するとき、家族やパートナー、同僚に
「あぁ、白髪気にしてたんだ」
と知られることに敏感になるのも想像に難くない。
そこで白髪ぼかしが得意な美容師として、何か新しい造語を作ろうじゃないかと協議した。表現しにくい下半身のアノ部分を「デリケートゾーン」と呼ぶように、検索ワードとして使いやすい表現はないだろうかーー。
今のところ、すでに志麻が多用している「大人ハイライト」がもっともしっくりくるのでは、ということに。だが彼女はこうも言う。
「白髪って言葉がめっちゃ引き寄せてる気がする。ダサいしネガティブな表現なんだけど」
なるほど、これが当事者の感覚なのかもしれない。白髪をグレイヘアーと濁してみたり、白髪染め(ぼかし)を大人ハイライトと表現してみたり、たしかに耳障りはいいがダイレクトさに欠ける。ましてや自らの白髪を気にするミセスにとっては、
「回りくどい表現はどうでもいいから、うまいことやってくれる美容室、いや、ヘアサロンを探したいのよ!」
というのが本音だろう。
志麻が意識する白髪ぼかし、もとい大人ハイライトは、
「明るくなりすぎず、髪の毛を痛ませない。そしてハイライトが目立ちすぎないようにする。さらに白髪がいっぱいある場所はハイライトも細かく入れる」
のだそう。実際に彼女のSNSを見ると、ビフォーアフターで見事な差が出ている。こんなカッコよくなれるなら、さっさとやってもらった方がいいじゃん!と、誰もが思う変身ぶり。
美容業界はオシャレワード誕生の地でもある。よって「白髪ぼかし」を「大人ハイライト」と呼んでも、当たり前に通じる日が訪れるよう、志麻発の啓蒙活動を推したい。
世のミドルエイジ・ウーマンよ、聞いて喜べ。
加齢による変化は「隠す」のではなく、プロのテクニックでオシャレになじませることで、いくつになっても美しくいられるのだ!
サムネイル by 希鳳
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