社労士の仕事をしていると、国と客との板挟みになることがある。カッコよく言うと「法律と実務の溝にハマる」とでも言おうか。
そんなギャップについて最近、興味深い質問を受けた。
「日本の会社で、アメリカに住むアメリカ人を雇用したら、雇用保険に加入させるのか否か」
わたしは即答した。
「週20時間以上の労働なら、加入でしょう」
しかし都内のハローワークの回答は割れた。割れたというか、1カ所を除いて「非加入」との回答。その理由として、
「将来的にも日本に来るつもりがないのなら、雇用保険被保険者として保険給付(主に失業給付)の受給は行われないわけで、それならば加入を要しない」
というような内容だった。
これに対してわたしは大いに疑問を抱いた。
(じゃあなんで、法律上そのことが明記されてないんだ?)
雇用保険の被保険者には「適用除外」の要件がある。原則、そこに当てはまらないのなら「加入」するのが筋だろう。
しかも4カ所のハローワークでは「加入を要せず」だったが、1カ所だけ「加入が必要」との回答。なぜ答えが分かれるのか。
そこでハローワークの元締めである労働局へ確認をした。
「原則、加入です」
やっぱり。ではなぜハローワークによって回答が異なるのだろうか。
「あー、なるほど。それはですね・・・」
過去に労働局から厚生労働省へ、この件について確認したことがあるとのこと。その回答として、
「労働者が将来的に日本へ来る予定がない場合、失業給付の受給の可能性もないわけで、そういった事情での加入の適否は、管轄の公共職業安定所長に委ねる」
という運用なのだそう。
(なるほど、だからハローワークによって回答が違ったんだ)
だが個人的に思うところはある。
「雇用保険イコール失業給付」というイメージが強いが、たとえばコロナで大活躍の「雇用調整助成金」などの助成金関係、「育児休業給付金」や「教育訓練給付金」のように、被保険者(労働者)が直接受けることのできる給付もある。
ましてや雇用保険制度の趣旨からして、個々の事情で加入の可否が動くことは、法律としても弱い気がする。
さらにこれからの時代、日本人であろうがなかろうが、海外に住む誰かを雇用する機会は大いに考えられるわけで、古い法律の範疇で答えを出すには無理がある。
ちなみに補足として、
「住民票を消除しても、いずれ帰国する場合は雇用保険加入」
「在外勤務となる前から日本の会社で働いていた場合は、出国後も雇用保険は継続加入」
ということだが、この辺りも実に曖昧だ。
とくに後者など、失業給付の観点からすれば「二度と受給しない」わけで、それならば資格喪失するのが妥当なのでは?と思う。
つまり、国としても「多様な働き方」をコントロールできていないのが現状。
昭和前半の法律を土台にするうちは、いつまでたっても「昭和の展開」しか望めないだろう。
*
助成金の話題が出たのでもう一つ。
雇用調整助成金は、雇用保険被保険者がゼロの場合は受給できない。
ある顧問先で、たった一人の雇用保険被保険者が退職した。
退職前に助成金の申請をしたが、審査に時間がかかったため、支給決定前に被保険者の資格喪失を行わなければならなかった。
その結果、助成金は不支給となった。
こんな理不尽なことがあるだろうか。
コロナ禍で店の経営も苦しい中、妊娠を機に寿退社を決めた労働者を温かく送り出した結果、助成金は不支給だなんて。
実際のところ、もう一人被保険者がいれば問題はなかった。あるいは今後、被保険者となる労働者を雇用する見込みがあり、書面でその確認ができれば審査は継続するとのこと。
とはいえ従業員一人の小さな店舗で、雇用保険被保険者をすぐさま雇用することは、想像以上に難しい。
しかも今回、審査途中で資格喪失(退職)が発覚したためこのような事態となったわけだが、仮にあと数日早く審査が進んでいれば、結果は違ったわけで。
(東京ならもっと迅速に審査してくれるのに・・)
さすがに申請から2カ月経過しての審査となれば、その間に退職するケースもあるだろう。もちろん、申請時点では退職の話などまったく出ていなかったのだから。
思うところは多々あるが、運不運もあるのが助成金。
だが労働局側も職員総出で取り組んでおり、ルールに従って処理をしているわけで文句は言えない。
しかもここ最近、書類のチェックが厳しくなっている。これまでスルーされていた添付書類について、今月からは追加提出を求められるようになった。
何を隠そうこれが本来の姿であり、助成金とは厳しい審査が付き物なのだ。
(でもさぁ、コロナで時短、コロナで営業自粛。コロナって事業主の責任なんだろうか・・・)
サムネはおなじみ、ホナウド!
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