厳重な監視体制が妙に目立つ、田舎の質素なわが家

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実家の警備体制が整った。わが家は長閑(?)な田舎にあるため、外塀をよじ登って敷地内へ侵入することが容易い。そして、貧しいわが家へわざわざ侵入する者がいるとしたら、それは金品目的ではなく、見事に熟した"大きな柿"を盗るためである。

高さ2メートルの立派な塀の上には鉄条網が張り巡らされており、その四隅には高性能の監視カメラが設置されている・・というような豪邸ならば別だが、ちょうど目の高さまでしかない低いブロック塀では、たわわに実る大きな柿が歩行者から丸見えなのだ。

このわたしでさえ「あの柿、美味そうだな。いくつか頂戴してもバレないだろう・・」と、他人事のように盗みを企ててしまうわけで、腹の減った輩や柿好きならば、侵入から5分ですべての柿を収穫できるだろう。

 

というのも実際に、朝起きたら庭の柿が一つ残らず消えていたことがあるのだそう。

これまでにも、鳥が柿を食べてしまうことはあったが、その場合はヘタの部分が地面に落ちているため"犯人は鳥だ"と断定できた。ところが今回・・というか昨シーズン、ヘタどころかなんの証拠も残さずに忽然と柿が消えたというから気味が悪い。

人為的な仕業に違いないが、ということはわが家の敷地内へ不法侵入した者がいるわけで、母いわく「柿がほしいならあげるから、せめて『いただきました』とか、書き置きを残してほしいわ」と、よく分からない不満を垂れていた。

そんなわけで、実家に監視カメラを設置するべくネットで良さげなアイテムを購入し、実家へと向かったのである。

 

まずは"ダイレクトに柿を奪取する経路"として、庭に面した塀に向かってカメラを設置した。半径10m以内にヒトが来ると自動でライトが点灯し、その存在を確認することができるため、侵入目的でなくても暗い夜道を帰宅するのに便利。しかもフォルムが厳ついため、日中であれば容易にカメラの存在が目視できることから、抑止力としても抜群の効力を発揮するはず。

そしてもう一つは、庭と逆側の塀を監視するべくカメラを設置した。犯人は必ずしも最短経路で侵入するとは限らず、むしろ飛び越えやすい場所から入るのが定石。となれば、わたしだったらこちらから入るだろう——というわけで、こちらにも同様のガチなカメラを設置してやった。

最後に、玄関の真上にドーム型のカメラを取り付けた。先の二つは攻撃的なフォルムをしているため、アレを玄関に設置するのは善意の来訪者に対して失礼ではないか・・との配慮から、カメラの向きが分かりにくいドーム型にしたわけだ。それと同時に、玄関前にヒトが立つと自動点灯する照明も設置したので、夜中に帰宅しても安全である。

ここまでやれば、さすがの柿泥棒も断念するだろう——。

 

3台の防犯カメラを設置し終えたわたしは、あらゆる方向からカメラの角度と人感センサーの反応具合いを確かめた。電源はソーラー式であり、Wi-Fi経由で映像が保存されるため、設置してしまえば長期間メンテナンスは不要となる。

(それにしても、田舎のぼろい一軒家にこんな仰々しい防犯対策が必要なのだろうか・・)

明らかに、金目の物など所持していないであろう一般家庭の小さな戸建てのくせに、これほどの厳重な防犯対策が必要なのもおかしな話。そして、今の時期だけは庭にお宝・・柿が実っているわけで、それ以外のシーズンは単なるガーデニングの土地である。どうせなら、家屋自体をリフォームしたほうがカメラの存在も馴染む気が——。

 

「それにしても、こんな立派なカメラを3台も設置したのに、全部ダミーってウケるよね」

 

——そ、その事実は伏せておいてもらいたい。

 

Illustrated by 希鳳

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