菓子カースト崩壊!?ラスクの下剋上

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正直、ラスクという菓子を舐めていた。なぜなら、あんなカサカサした軽い菓子が、ものすごく美味いはずなどないからだ。

そもそもラスクとは、薄くスライスしたフランスパンにバターや砂糖を塗りたくって、オーブンでカリカリに焼いたもの。つまり、焼き菓子ならぬ焼きパン菓子なのだ。

 

パンといえば、何を差し置いてもクロワッサンが大好物のわたしは、自ら好んでフランスパンを食べることはない。なんせ、フランスパンを食べるためにバターが添えられていたら、バターのみを食べるほうがよっぽど幸せを感じるゆえに、あえてフランスパンを食べる機会というのは無いに等しい。

そのため、ラスクでしかお目にかからないであろうフランスパンを使った菓子が、美味いはずなどないのである。

 

ちなみにラスクといえば、ガトーフェスタ・ハラダだろう。トリコロールカラーのパッケージが目立つ「グーテ・デ・ロワ(王様のおやつ)」は、洋菓子に疎い輩でも一度は目にしたことがあるはず。

ちなみに、グーテ・デ・ロワにはホワイトチョコレート味があるのだが、あれを冷蔵庫で冷やすとめちゃくちゃ美味い。ラスクの表面にホワイトチョコがコーティングされており、カサカサのラスクをしっとりと包み込む感じが、まるで"やんちゃ坊主を抱きしめる聖母"のようで、なんとも優しくクリーミーなお味なのだ。

 

とはいえ、グーテ・デ・ロワのホワイトチョコレートは例外であり、むしろこれ以外のラスクは食べないわけで、どう考えてもウォーカーの「ショートブレッドフィンガー」のほうが上位にランクインする。

ショートブレッドフィンガーは、全材料の32%がバターでできているため、未開封の商品を手にしただけでもバターの香りが漂ってくる(気がする)。そしてふんだんに使われている濃厚なバターのせいで、紙の上に置けば油が染みこんで半透明になるほど、非常にオイリーでジューシーなクッキーなのだ。

 

このように、バターまみれのしっとりクッキーが好みのわたしにとって、ラスクはまったく眼中になかった。むしろ、クッキーよりも下に見ていた可能性もある。

——ところが、だ。

友人から、クリスマス仕様のかわいらしいパッケージの菓子をもらい、開けてみるとそこには4枚のラスクが入っていた。表面のチョコが抹茶、ホワイト、ビター、ミルクの4種類でできている模様。

自腹を切ってまでラスクを買うことはないが、誰かからもらう分には嬉しいわけで、わたしはさっそく味見をすることにした。

 

ハートブレッドアンティークの「チョコレート博士テンパルの たっぷりチョコがけラスク」と書かれた個装を破ると、そこには抹茶チョコがたっぷりかかったラスクが潜んでいた。・・おっと、「チョコがたっぷり」などと商品名を連呼してしまったが、それ以外の表現が見当たらないほど「チョコがたっぷり」かかっているのだから仕方ない。

ラスクというやつは、齧るとパンの粉がポロポロこぼれるので、下に何かを敷いておかなければならない。とりあえず目の前にあったコンビニの袋を広げると、その上にラスクを配置してから一口齧ってみた。

 

(・・・・や、柔らかいというか、キメが細かくて硬くない!?)

 

この歯ごたえには衝撃を受けた。ラスクといえばスカスカで硬くて、粉がこぼれ落ちる「食べにくい焼菓子」だと思っていた。ところがこれは、全然違うではないか——。

わたしの知っているラスクは、たとえるならば「煎餅(せんべい)」だった。ところがこれは、押しも押されぬ「上質なクッキー」である。サクサクの歯ごたえが、硬すぎず柔らかすぎず上品な強度で咀嚼を彩ってくれるのだ。

 

そしてさすがはテンパル博士、チョコレートが美味い! 抹茶マニアのわたしを唸らせるほどの、風味豊かな抹茶感は「お見事」の一言に尽きる。リンドールの抹茶味のような激甘ではなく、日本が誇る"お抹茶"の奥深さと繊細さをしっかりと再現しているのだ。

ホワイトチョコもビターチョコも、いずれもチョコレートだけで食べても非常に美味いわけで、それでもラスクとして共存することで、さらなる高みへと誘(いざな)う相乗効果には脱帽である。

 

そして何よりも驚いたのは、ラスクの表面を包み込んでいる"チョコレートの厚み"だ。

いくら「たっぷりチョコ」といえども、まぁせいぜい1ミリ程度のコーティングが一般的だろう。ところがこれは、多いところでラスクとの比率が1対1になるほどの、分厚いチョコを纏っているのである。

少ない部分でも、ラスク対チョコの比率が3対1はあるであろう贅沢なチョコ使いは、やはりテンパル博士の権力によるものか。

 

4枚のラスクを瞬殺したわたしは、さっきまで抱いていた"ラスクを蔑視する考え"を、根底から改めさせられた。

初めて「たっぷりチョコがけラスク」を食べただけで、こんなにもラスクが尊いものであることを知るとは——。

 

 

わたしは今日、菓子が秘める"新たな可能性"に触れた気がする。よって、これからはラスクという未知の菓子を探る旅に出てみようと思う。

 

サムネイル by 希鳳

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