少しでも朝寝坊をしたいとき。
というか、正当な「言い訳」をもって起床時刻を少しでも遅らせたいとき、時計を見るならアナログの方がいい。
なぜならデジタルは、どうやっても現実しか表示しないから。
今日も朝から予定がある。
私一人の予定ならば間違いなくこのまま目を閉じるが、相手あっての予定となるとそうもいかない。
布団の中での葛藤が続く。
*
アラームの設定で悩むのは、家を出る時刻から逆算して何時に設定すべきかということだが、「逆算」の中にどんな作業を入れるかが問題となる。
通常の最低限フルコースだと、
・歯を磨く
・顔を洗う
・シャワーを浴びる
・髪の毛を乾かす
・コンタクトを入れる
・着替える
このくらい必要で、余裕をもって60分、大急ぎで30分といったところ。
かなり端折ったショートコースだと、
・歯を磨く
・髪の毛を濡らす
・コンタクトを入れる
・着替える
最悪これでも出かけられる。
寝る時点で着替えを完了させておけば、歯みがきと髪の毛とコンタクトだけで出発できる。
ーー明日の準備と服装を決めながら、私はアラームについて考える
かつて失敗した例としては、準備の時間に余裕を持たせすぎたため、アラームで目を覚ますと寝ぼけながらも、
「準備にこんな時間はかからない」
と、もっともな意見が脳裏を過(よぎ)り、再び眠りについたことを思い出す。
また、アラームを5分刻みで45分間鳴らし続けた結果、最初のアラームですでに目が覚めてしまい、睡眠時間を損した気分になり一日中不機嫌だったこともある。
そして何より、起床に関するもっとも恐ろしい行為は、二度寝だ。
二度寝という現象がなぜ起きるのかといえば、必要以上に早くアラームを鳴らすからに他ならない。
どんなに寝ぼけていても、人間の本能というものは鮮やかに機能するため、「まだ寝る時間がある」と判断し、二度寝に突入する。
つまり、早起きしてゆっくり準備して、などという甘っちょろい考えは捨てるべきである。
常にギリギリ、死に物狂いで生きる覚悟が必要だ。
私はアラームをギリギリの、出発から10分前にセットした。
もちろん、翌日出かける格好でベッドへ入る。
ーーそしていま、スマホのアラームが鳴っている
トントコトントコ、イラつく太鼓の音が流れる。
いったん止めるもスヌーズ機能で3分後にまた、トントコトントコ鳴り出す。
(タクシーにすればあと15分寝られる)
もうこうなると手が付けられない。
電車で向かう予定で逆算したアラームが、当日の眠さ加減によりタクシーへと変更された。
そして何度目かのイラつく太鼓の音を聞きながら、狭い部屋に掛かる大きなアナログ時計に目をやる。
ベッドで横になっている私から見ると、天井近くに設置された時計は右下から見上げる形になる。
なんと、角度によっては1分くらい時間が戻るのだ。
右下から見れば見るほど、現在時刻より前の時間に見えなくもない。
というか、長針が進んでいないように見える。
(もしかすると、まだあと1分あるんじゃないか)
そんな錯覚を引き起こしてくれるのが、アナログ時計の良い所。
事実、私が見ているアナログ時計の長針は、デジタル時計が示す時刻の1分前を指している。
粘りに粘り、どこからどう見ても、錯覚を考慮しても出発時刻5分前となった時点で、ベッドから飛び起きる。
左手で歯みがき、右手でコンタクトを入れるとダッシュで家を出た。
(こんな忙しい思いするなら、もう5分早く起きればよかった)
毎回、同じことを思いながらタクシーの前へと飛び出る。
そして案の定、1分ほど遅刻で無事到着。
*
デジタルは現実を直視させるが、アナログは人間に裁量を委ねる余地を持つ。
言うなれば「浪漫」だ。
結果的に、それが人間(私)をダメにしているとも言えるのだが。
Illustrated by 希鳳
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