空母LUCA、戦闘機を待つ。

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私の髪の毛を切りながら志麻は、

「元カレにさぁ、『オマエはちょっとブスなところがちょうどいいんだよ』って言われたことあるんだよね〜」

と、笑いながら話す。

 

ちょっとブス――

 

失礼すぎず、かといって褒めているわけでもない。だが、パートナーから言われる照れ隠しの本音としては無難な評価か。

 

なぜその話題になったかというと、美人すぎない(失礼)志麻が見せるメイクやヘアアレンジの評判が良いことに対する、我々なりの理由を挙げていたのだ。

さすがに友人とはいえ、後輩の私が先輩に向かって

「普通っぽい顔だからだよ」

とは言えず、言葉を濁していたところでナイスな表現が飛び込んできたわけだ。

 

誤解のないように付け加えておくが、志麻は決してブスではない。そう、ブスではない。

 

 

ニューヨークで修行を積み、帰国後は表参道や恵比寿といったオシャレ激戦区のサロンで美容師キャリアを築いてきた志麻。そんな彼女が満を辞して、昨年末に地元・亀有で自らのサロンをオープンさせた。

 

LUCA KAMEARI SALON

 

ニューヨークにいる彼女の友人が昨年7月に出産し、その子どもの名前にちなんで付けたというLUCA。ラテン語で、

「光をもたらす者」

という意味を持つことと重ねて、

「このサロンを自分の子ども同様に愛し、お客さんに光を与えられる場所に育てていきたい」

という願いを込めたのだそう。

 

美容師歴20余年、とうとう自分のサロンを構える「母親」になったのだ。

 

 

私は今日、初めて亀有という土地へ降り立った。亀有駅には「こち亀」の主人公である両津勘吉の銅像が立っており、記念撮影でも、と思ったが銅像の隣りに女子高生らがたむろっていたので断念。

ちなみに、亀有駅の南口は大型ショッピングモールなどがそびえ、活気あふれる近代的な下町。だが志麻のサロンはこちら側ではなく、北口にある。案ずることなかれ、それでいいのだ。

 

なぜなら、両津勘吉は北口でお出迎えするからだ。

 

初めての人でも両津勘吉を目指して駅を出れば、志麻のサロン側の出口となり非常に分かりやすい。ニューヨーク風ヘアサロン×下町代表・両津勘吉、素晴らしいコラボではないか。

 

サロンへ向かう途中、どこかでお茶でもしようと思ったが、さすがに港区や渋谷区のようにシャレたカフェは見当たらない。いや、探せばあるだろうが、初心者の私には見つけられなかっただけだ。

そんな私の目に堂々と飛び込んできたのは「マクドナルド」の看板。何年ぶりかにマックへ立ち寄る。いやはや、すべてが安定のマック。

 

ダブチ(ダブルチーズバーガー)、ポテトL、コカ・コーラ、ベルギーショコラパイ。

 

往年のラインナップで懐かしさを堪能。なんと言っても、たまに食べるマックは美味い。これは誰もが首を縦に振るであろう、マックあるある。

 

話が脱線したが、マックで腹ごしらえをした私は早速、志麻のサロンへと向かった。

 

 

「来てくれてありがとう~」

 

笑顔で迎え入れる志麻を見て、私は思った。

(まるで空母だ)

空母とは、正式名称を「航空母艦」といい、航空機を搭載した海上の航空基地。有事の際、戦闘機に燃料や弾薬を補給したり、パイロットの休息や戦闘機の整備を行ったり、まさに母なる艦艇だ。

 

好奇心旺盛で喜怒哀楽の感情表現が豊かな志麻が、わずか3か月で空母と化した。これまでにはない「待ってたよ」という、両手を広げて受け入れる姿に驚かざるをえない(実際にそんなジェスチャーはしていないが)。

だがこれこそが、「自分の店を持つ」ということなのだろう。資金繰りから内装、メニュー作成、宣伝や集客まですべて手探りで漕ぎつけた志麻にとって、残されたことといえば「受け入れること」に他ならない。

 

空母は完成した。あとは航空機が降り立つのを待つだけ。

 

 

整備を終えた戦闘機(私)は飛び立った。こうして何機もの戦闘機を整備し、送り出す日々が続くのだろう。

 

空母LUCA、いや、サロンLUCAのこれからに、幸多からんことを。

 

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