白金高輪というセレブリティが集う街の駅前には、ランドマーク的な存在としてスターバックスがある、そして、店の目の前にはコンクリート製の”円柱状の構造物”が存在する。
その構造物は高さが2メートルほどあり、内部には下水道や雨水を管理するためのマンホールおよび換気口が設置されている模様。さらに、構造物の周囲はヒトが座れるスペースとなっているため、スターバックス店内から溢れた客がたむろったり学校帰りの学生たちが時間をつぶしたりする光景を、近隣住民は日々目にするわけだ。
そんな構造物の上に、一人の男性——頭部は白髪を染めた金髪で、やや長い後ろ髪を束ねており、黒いジャケットに黒いパンツ、洒落たスニーカーといういで立ちの、簡単にまとめてしまうと「比較的ダサくはないオッサン」が立っており、なおかつ大声で一人カラオケに勤しんでいる姿を発見したわたし。
良識ある大人ならば、高さ2メートルの構造物(しかも、公共エリアにあえて設置されている状況からも)にのぼって、真っ昼間から大声でAKB48やミスターチルドレンを熱唱しよう!・・などとは考えないわけだが、おそらく酔っぱらっているのだろう。
とはいえ、時刻はそろそろ正午を迎えようとしており、真っ昼間のど真ん中もいいところなのだが、それでも抑えきれない感情を爆発させたかったのではないかと推測する。
かくいうわたしは、モバイルオーダーしたコーヒ類が出来上がるまでの数分間、コンクリート構造物の縁に腰かけて、オッサンの”醜演”をBGMにシュールな時間を過ごしていた。
そんなオッサン、歌の合間に「チッ・・こんな野外カラオケコンテストなんて・・あるのかよ」などと、ブツブツ独り言をつぶやいた——誰かに騙されているのか、はたまたYouTubeの撮影でもしているのか・・?
にしてもこのオッサンは、酩酊状態で呂律が回らないわけでもなければ、若干の千鳥足ではあるがそこまでふらつくこともない。しかも、見た目は「まとも」といえばまともで、いわゆるホームレスのような小汚い姿ではないのだ。
かといって、至極まともな印象もなければ脳機能的に問題を抱えているとも思えない(厳密には何らかの脳の機能障害があるのかもしれないが、それだけが原因でこのような面白い奇行に及んでいるとは思えない)わけで、「なぜそんなところで、真っ昼間から大声で懐メロを熱唱してるの?」と尋ねたい衝動に駆られた。
——とその瞬間、白金高輪ステーションビルの管理会社と思われる警備員らが、オッサンのステージを取り囲み「危ないのでそこから降りてください」と声をかけたのだ。
まぁ当然といえば当然の展開だが、そんな呼びかけに対してオッサンは「子どもたちだってよく登ってるじゃないか!なぜ俺だけ注意するんだ」と、恥ずかし気もなく稚拙な反論をした——やっぱり、近隣住民なんだな。
警備員らは「子どもにも注意をしていますが、その下には水が溜まっているので、仮にあなたが落ちても助けられないんですよ」と、まるで小学生を諭すかのような訴えを述べている。するとオッサン「あぁ、心配しないでくれ。俺が落ちたら助けなくていいし、死んでもあんたたちのせいにはしない。だから好きに歌わせてくれよ!!」と、素直に引き下がれない心境を吐露した。
さらに、こんな驚愕のセリフまで吐いたのだ。
「あんたち、アレだろ?俺が羨ましいんだろ?高い所にのぼって大声で歌う・・という、特別なことをしている俺が羨ましくて、そんなこと言ってるんだろ?」
と、まさかの仰天発想を口にしたではないか——あんたがうらやましい??あんたか特別な人間??
その時、わたしは思った。
(たしかに、シャア・アズナブルの演説は高い場所から平民や兵士を見降ろしつつ行われるし、一般的にも社長や大統領の演説は壇上から行われるのが常。そもそも「登壇する」というくらいだから、高い所から大声で発信することに意味があるわけだ。
ちなみに、辻立ち(政治家や選挙候補者が、駅前や交差点といった人通りの多い場所に立ち、通勤・通学の人々に向けて街頭演説や挨拶を行う活動)にて、頼んでもいないのに己が掲げる主義主張を大声でまくしたてる者がいるが、あれらを見ても「変な人」とか「酔っぱらっている」とは思わない。
ということは、シャアや辻立ちの原理原則をこのオッサンに当てはめてみると——特段、おかしなことはしていない・・となるのかもしれない!!!)
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どう頑張っても受け入れられないオッサンの熱い想いとは裏腹に、警備員の一人が警察へ通報する姿を確認しつつ、モバイルオーダーのドリンクを受け取ったわたしは静かに帰宅するのであった。




















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