うら若き乙女たち、2億円をかけて鼻息を荒げる。

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10年以上ぶりに訪れた大井競馬場は、以前と変わらぬ賑わいでわたしを迎えてくれた。といっても、最後にここを訪れたのは競馬目的ではなく、わたし自身がコースを走るためだったような——。

 

今から13年前、「馳せよランナー!第1回競馬RUN in 大井競馬場」というマラソンイベントに参加したわたしは、友人ら5名でチームを作り大井競馬場の馬場を走った。

普段はサラブレッドたちが鮮やかに駆け抜けるダートコースを、その日はニンゲンたちが必死になって走る・・という、見る側も走る側も面白い上にインパクトのあるイベントが”競馬RUN”。いくつかのカテゴリーがあったが、我々は「20人以下のチームで42.195キロを走破する」という、リレーマラソンにエントリーをした。

 

かくいうわたしは走るのが苦手なため、あくまで人数合わせにしかならなかったが、「ルチャリブレの覆面をかぶって走る」など、イベントを盛り上げることに貢献した記憶はある。

だが残念なことに、その後「競馬場でマラソン」というワードを耳にしていないので、もしかするとあのとき一回限りだったのかもしれない。とはいえ、あのイベントで六千人もの参加者を集めたのだから、再び開催されることがあれば改めて参加したいと思うのだ——走るのは嫌いだが。

 

そんな記憶をたどりながら競馬場を見渡すと、大晦日だというのにものすごい人だかりである。

2026年が午(うま)年であることにあやかりたいのか、はたまた都心からほど近い距離にあることや、競馬場内の設備が充実しているため老若男女問わず楽しめるからなのかは分からないが、普段は大声など出さないであろう陰キャたちが、ゴール直前の2ハロンあたりでこぞって雄叫びをあげているではないか。

バスケやサッカーを観戦中に、思わず歓声をあげたり手を叩いたりすることがあるが、あれよりももっと気持ちのこもった・・いや、人生(?)をかけた魂の叫びなのかもしれない。その証拠に、競走馬たちがゴール版を駆け抜けてしまえば、陰キャらのさっきまでの発狂っぷりは影を潜め、「もう二度と見つけられないだろうな」というくらいサッと気配を消してしまうのだから。

 

あとは、「推し」の存在だろうか。競走馬というのは、当たり前だが両親がいる。そして、その両親もかつてコースを疾走していた(場合が多い)わけで、親の名前から当時のレースを思い出す・・という、時代を超えた応援ができるのも競馬の奥深さといえる。

そして何より、馬が美しいことがニンゲンの心を掴むのだ。汚れを浄化するかのような澄んだ瞳、走るために生まれてきたであろう滑らかなフォルム、たまに見せる茶目っ気たっぷりの甘えん坊な姿など、完成品でありながらもヒトの感情を揺さぶる「何か」を競走馬は持っている。

 

そもそも、馬とヒトとの歴史は今から五千年前までさかのぼる。ヒトが馬を家畜化することで食肉用や農耕馬として、また、乗用馬や馬車馬そして軍用馬に至るまで、ヒトが生きる上での「重要なパートナー」として馬が存在するようになったのだ。

その結果、それまでは人力で運んでいた物資を馬に代えたことで、輸送量の増加や移動速度の向上など圧倒的な技術革新をもたらした。さらに、狩猟効率の向上や軍事利用など、歴史および文化の発展にも大きく貢献してきた。

なお、現代においては乗馬やホースセラピーといった「癒し」に加えて、まさに今ここに集う人間らを引き寄せて止まない「競馬」など、かつてとは異なる場面でヒトとの関わりを維持し続けているわけだ。

 

そうこうするうちに、本日のメインレースである「第49回 東京2歳優駿牝馬(S1)」がスタートした。これは、地方競馬所属の2歳牝馬(メス)限定の重賞で、1,600メートルの距離を走ることで「誰が一番いいオンナなのか」を競うレースである。

年末ラストの重賞ということもあり、もの凄い数の人間たちがコース前へと集まっている。その顔ぶれを見ると、しがない中年男性を筆頭に、学生と思しきみずみずしい男子、美男美女のカップルやカメラ好きの女性グループ、さらには子ども連れのほのぼのファミリーなど、ここが競馬場であることを忘れそうなほど多種多様な層のニンゲンたちが目を輝かせていた。

 

ちなみに、大井競馬の今開催(12月24~26、29~31日)において、合計売上金が地方競馬1開催の売上レコード(278億749万1340円)を記録した模様。来場者数のほうは不明だが、東京大賞典が行われた日で3万人弱(凄いこと!)らしいので、今日は1万人・・いや、1万5千人はいるだろうか。

とにかく、「今年の最後を競馬で締めくくろう!」という、気骨のある強者がこぞって押し寄せているのだから、日本もまだまだ捨てたもんじゃない。

 

(それにしても、あの砂場をあのスピードで走り続けられるって、やっぱり馬はすごいなぁ・・)

 

1着賞金2億円——麗しき乙女たちの熾烈な逃走劇を、他人事のように見守るわたしなあのであった。

 

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