無駄で無意味な、謎のこだわり

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わたしには「謎のこだわり」がある。柔軟性や利便性の観点からも、明らかに誤ったやり方ではあるが、それでもなぜか「こうでなければ気が済まない!」という意味不明なポリシーが沸き上がってくるため、その機会が訪れるたびに何分もの不毛な時間を過ごさなければならないのである。

そんな「意味不明かつ無駄なこだわり」とは、背後で固定させる留め金は絶対に背後でとめる・・というものだ。

 

たとえばネックレスがいい例だが、一般的には”両手を頭の後ろへ回して留め金をとめる”という動作が必要となる。だが、必ずしもそうしなければならない決まりも理由もないため、肩関節の可動域が狭くて腕が回らなかったり、留め金をつなぐパーツが小さすぎて上手くかみ合わなかったりしたら、背後にこだわることなく正面でつなげばいいだろう。

なにも、届かない腕を無理やり駆使して回す必要はないし、衣服によっては肩回りがタイトなデザインもあるわけで、物理的に届かない・・というか余裕のない状況にこだわる意味も必要性も皆無。

しかも、金属製の丸いフォルムは滑りやすい形状のため、ハンドクリームでも塗っていようものならなおさら滑る。その結果、バネの効いた留め具を開くことすら困難となるうえに、留め具と合体させるパーツが小さい場合など、およそ至近距離にあるにもかかわらず永遠につながらないことで、イライラは募り額からは汗がにじむ始末——。

 

「だったら、正面でつなげばいいじゃん」

 

普通に考えれば誰もがそう思うわけだが、ネックレスを正面に回して鏡を見ながら合体させることに、わたしはなぜか違和感というか嫌悪感を抱くのであった。その意味不明なこだわりのせいで、毎度苦戦を強いられているにもかかわらず——。

 

ちなみに、ネックレスの他にも苦戦を強いられるアイテムがある・・それはブラジャーだ。

あれは、非常に面倒くさくて窮屈な装備品である。たわわな果実を有する女性ならば必須アイテムかもしれないが、そうでないわたしからするとブラトップやホックなしブラで十分なため、わざわざ背後で留めなければならない正統派のブラジャーなど、よほどの臨戦態勢でなければ用無しといえる。

だが、夏場は着用する布の枚数が減ることや肌の露出が増えることから、場合によってはブラジャーを引っ張り出さなければならないことも。そんなわけで、久しぶりに留め具のついたブラを装着するべく背後へ手を回したのである。

 

(・・・どこにホックがあるんだ?)

人間の弱点は背中・・といっても過言ではないくらい、背後は見えない上に関節の向きも制限されている。にもかかわらず、背中の割と高い位置でホック同士を合体させる必要があり、肩関節や指先に負担がかかるのがブラの欠点。

おまけに、ホールド力の高い3段ホックであることから、一つを引っかけるだけでも困難を強いられるというのに、その苦行を3回も繰り返さなければならないことからも、相当な柔軟性と忍耐を要するわけで。

 

(・・世間の女子は、日々この苦行をこなしているのだろうか)

ふと疑問に思ったわたしは、グラマラスな盛土を抱える友人に尋ねてみた。すると彼女は、

「私、手が届かないから前でつけてから後ろに回してるよ」

と教えてくれたのだ——なるほど、当たり前といえば当たり前か。

 

背後に手が届きにくい、またはホックの位置が分かりにくいならば、正面で視認しつつ留めればいいだけのこと。その後、クルクルと回して後ろへ持っていけば完成であり、途中経過などどうでもいい話である。

しかしながら”無駄で無意味なこだわり”があるわたしは、どうしてもそれを許すことができない。何が何でも、後ろで合体させなければ気が済まない——そんな、意味不明な信念あるいは主義を掲げるが故に、3段ホックのブラを完成させるのに何分・・いや、何十分も無駄な時間を費やすのであった。

(・・とりあえず、2つ留まってればいいか)

挙句の果てには、3つ目を合体させることを断念し「2つでよし!」とする始末。いやいや、どうせなら全部ちゃんと合体させようや——。

 

 

この「謎のこだわり」に、どんなメリットや理由があるのかは当事者である自分にも分からない。だが、正面で留め具を合体させることを「悪」とする信念のせいで、結果として遅刻を誘発している・・という事実に、若干のもどかしさを感じるのであった。

 

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