目立ちたくない私

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わたしは"コソコソすると余計に目立つ"という、なんとも迷惑な性質の持ち主である。無論、コソコソしなければならない状況を作っているのは自分自身であり、その時点で誰かに迷惑をかけているのだから迷惑もクソもないわけだが、少しでも反省の色を見せるべく小さくなって登場するのだから、そこはどうか見過ごしてもらいたいもの。

だが、悪いことをすると目立つのはニンゲンの・・いや、動物のサガかもしれない。飼い犬がクッションを噛みちぎったりニンゲンの食べ物を勝手に食べてしまったりすると、妙に媚びながらご機嫌伺いをするような仕草を見せる、あるいは、妙に白けたよそよそしい態度をとるなど、明らかに不自然な雰囲気を醸し出す。あれは、犬本人が「まずいことをしでかした」と認識しているからこその、彼ら彼女らなりの配慮なのだと思われる。

それでも、普段とは違う大人しさが余計に怪しさを助長するため、自ら「悪さをしました」と自白するようなもの——これと似たようなことなのだろう。わたしがコソコソすると、その行為自体が悪目立ちするのであった。

 

 

「今日、遅刻したでしょ」

笑いながらそう突っ込まれたときは、さすがにギョッとした。規模の大きな会合に参加するべく車で会場へ向かったわたしは、案の定遅刻をした。しかし、遅刻が悪いことだと認識しているからこそ、敷地内へ入るとなるべく目立たない場所へ車を停めたのだが、その一部始終を窓から見下ろしていた先輩は、わたしがシレっと会場の人混みに紛れていたところを、堂々とほじくり返してきたのである。

(・・なぜだ。あんなにそっと侵入し、会場から遠いところへ車を停めたというのに、なぜ見つかったんだ)

「だって、いつも飛ばしてくる赤い車がノロノロしてたら、逆に目立つでしょ」

——そうだった。わたしの車は真っ赤なセダン車で"普通に目立つ"ということを忘れていた。なんせ、乗っている本人は車の中にいるわけで、外からどう見えているかなど気にしていないからだ。しかもスポーツタイプのフォルムゆえに、オドオドしながら侵入してくればそれはやはり悪目立ちするのだろう。

というわけで、遅刻隠ぺいを図ったわたしだったが見事に玉砕したのである。

 

まぁ、これに関しては「乗っていたのがスポーツタイプの真っ赤な車だったから」という、ただ単に目立つ要素が禍(わざわい)しただけだが、そうじゃなくても日頃から変に目立つわたしは、できれば「わたしに触れないでもらいたい」と思っている。

友人から「URABEの体験談はどれも面白いから、YouTubeでもやればいいのに」と言われたことがあった。ほかにも「間違いなく当選するから、選挙に出ればいいのに」とそそのかされたことも。——冗談じゃない、バカにするのもいい加減にしろ!!

 

わたしは、自分自身が表に出たり人目につく立場に就いたりすることを、極力嫌うタイプ。だからこそこうして、文字を使って心情を綴っているのだが、元来目立つ性質のわたしはどうやら「目立ちたがり屋」だと思われている節がある。

(そういえば、探偵をやってる知人から「あなたは目立つから向いてない」と言われたこともあったな・・)

人前に出ることは極力避けたいが、それだけでなく、わたしがいないところでわたしの話をされるのも気分が悪い。それがたとえ称賛される内容だったとしても、どうか話題に出さないでもらいたいのである。

 

このように思う背景には、自分自身を気に入っていない・・正確には"顔やスタイルにコンプレックスを抱いているから"という深い闇がある——などと言えば、きっと「そんなことないよ!」と否定されるだろうが、それは他人が決めることではないので、わたし自身はとにかくトラウマ級に気に入っていないのだ。

とくに顔と体格については、親を怨むレベルで気に入っていない。ご存知のとおり、わたしは筋肉質なフォルムなので、よく「どんなトレーニングしているんですか」と尋ねられるが、そのたびに内心傷つき怒りが湧いてくるのが本音。なんのトレーニングもしていないし、むしろ筋肉質であることを残念に思っているわけで、それでも筋肉をつけたい人々にとっては輝かしいフォルムに見えるのだろう。

できればわたしは、薄っぺらくてひょろっとした手足の長いスタイルに憧れている。当然ながらないものねだりではあるが、こんなドラム缶のようなたくましい寸胴ボディになりたいなど、願ったことは一ミリもない。顔だって、もっと質素で女性らしいつくりがよかった。それでも現実は真逆なわけで、こればかりはどうしようもないのである。

 

顔も体格も人目に触れたくない——となれば、当然、目立ちたくないという気持ちになるのも理解できるだろう。そんな事情からも、わたしは文字で表現することで自分自身を投影したいと願っているのだ。なんせ文章というのは、読み手によって受け取り方が変わるため、十人十色の感想が得られるところが面白い。そして、想像を膨らませながら書き手をイメージするのもまた妙である。

 

「いやいや、その前に遅刻するなよ!!」

——そう突っ込む、誰かの顔が思い浮かぶのであった。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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