わが父、全盲スマホユーザーを目指す。

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とうとう、3Gのガラケーから4Gのフィーチャーフォンに機種変更を済ませたわたしは、iPhoneより一回り小さな黒い塊を手に入れた。今回のケータイはカメラが付いていないため、名実ともに通話に特化した端末である。あとは目覚まし時計と電卓、音声レコーダー機能を使うことがあれば、それらの役割も果たすことができるだろう。

とにかく、実質的には「黒い樹脂の塊」というオブジェを買い替えたということだ。

 

「そのケータイに、辞書機能はついているのか?」

全盲の父がそう尋ねてきた。彼は、富士通製のらくらくフォンなるものを所持しているが、プリセットで英和・和英・広辞苑が入っているため、通話よりもその辞書機能が重宝している様子。

だが、らくらくフォンではアプリのダウンロードができないため、諸々のサービスを利用するためのアプリが利用できない。ほかにも、インターネットを使っての検索や動画の視聴なども難しいため、やはり彼にとっては通話と辞書機能だけの存在なのだ。

 

そもそも全盲なのに辞書検索ができるのか?と疑問に思う人もいるだろう。ところが、うちの父はテキスト入力ができるため、わたしにしょっちゅうメールを送ってくるのだ。よって、物理ボタンがあれば文字入力も辞書検索もできるのである。

とはいえ、残念ながらわたしが購入した京セラのフィーチャーフォンに、辞書機能はついていなかった。むしろ、富士通のらくらくフォンにしか、プリセットで辞書機能がついている端末は販売されていないのだそう。

・・そりゃそうだ、普通ならばGoogle検索などインターネットで検索すれば済むわけで、わざわざ辞書機能を備え付ける必要などないのだから。

 

「デジタル庁かどこかに、視覚障害者のために物理ボタンのついたスマホを作ってほしいと、意見を送ってもらえないか」

父の言うこともわかる。だがどちらかというと、これからはSiriやAlexaのように音声認識で操作する方向性となるだろう。その先は、言葉ではなく脳からの指示で操作が可能となる時代が来るかもしれない。

だが外出中に音声で指示を出すことは、時と場合によっては難しかったり、スマホから発せられる音声が聞き取りにくかったりと、父にとってはあまり使い勝手がいいものではなさそう。

 

これらの状況を打破できる策はないかと調べてみたところ、まさにドンピシャのスマホが引っかかった。それは「中国のApple」と呼び声が高い、シャオミが発売しているキッズ携帯だった。

上半分はタッチパネルディスプレイ、下半分は物理ボタンが設置された、テレビのリモコンのような形のスマホ。これならば、物理ボタンの操作でOS入りのスマホをいじることができ、まさに父が求めていたであろう商品である。

 

しかし追及して分かったことがある。まず、中国製ゆえにGoogle系のアプリは使えない。また、選択できる言語は中国語と英語の二択であり、なかなか不便だと思われる。そしてLINEもFacebookも使えないため、伝達手段としてのSNSがほぼ無意味ということだ。

これでは物理ボタンが付いているとはいえ、スマホ本来の目的を果たすにはほど遠い。・・とはいえ、さすがは中国。日本で購入できるスマホで物理ボタンの端末は皆無だが、中国ならば手に入る。ニッチすぎるからといって製造しない(できない)日本と比べて、資本も人材も豊富な中国ならば、不可能を可能にしてしまうわけだ。

 

シャオミのキッズ携帯が選択肢から外れたため、再び別のアイディアを探していたところ、iPhoneのキーパッド(通話機能を使う際に数字が出る画面)に対応したカバーが販売されていた。これは取り外しが可能な透明なカバーで、必要に応じてiPhoneの画面にかぶせることで物理ボタンとして機能するものだ。

既存の端末を活かして物理ボタンの希望も叶える、というなんとも素晴らしいアイディアである。だが、あくまで通話時のキーパッドでしか物理ボタンが機能しないため、テキストを入力する際には意味がない。

このほかにも、パソコンのキーボードのような「QWERTY配列」の物理ボタンが付いたスマホを発見したが、サイズが小さすぎて父にとっては使い勝手が悪いと思われる。ましてや、ガラケーのトグル入力に慣れてしまった老人が、今さらキーボード配列を覚えるのも面倒なわけで、「だったらいいや」となる可能性を踏まえて候補からは外れた。

 

(イマドキの全盲の若者は、どうやってスマホを使い来なしているのだろうか・・)

ふとそんな疑問を抱き、さっそくネット検索してみたところ、何人もの全盲スマホユーザーが見つかった。そして彼ら彼女らは、音声入力を使いこなすほかに、外付けのキーボードを駆使していたのだ。

 

外付けのキーボードはQWERTY配列とテンキーの他に、視覚障害者専用のキーボードが商品化されていた。とくに視覚障害者専用キーボードは、携帯電話の数字配列でできており、トグル入力で文章を作ることができるため、今までのやり方を踏襲できる強みがある。

とはいえ、QWERTY配列のキーボードは折り畳み式だがサイズも十分で使いやすい。さらに、配列を覚えてしまえばこちらのほうが速いしラクに感じるだろうから、長文を作成するならば断然こちらがいいだろう。

そしてこれらをBluetoothで接続することで、スマホ(視覚障害者専用キーボードは、iPhoneのみ)を操作することができるのだ。これならば現行のスマホを使いこなせるわけで、中国へ移住せずとも父はスマホを使って検索や動画視聴が可能となる。

 

今回、全盲でもスマホを使いこなせる方法を色々と調べてみたが、端末自体を変更するのは日本では難しいことが分かった。そして、既存の端末(主にiPhone)に付け足すことで、スマホを使いこなすことができるアイテムが意外と用意されていることも分かった。

だがどれも、ほとんどが海外製品かつ安価で販売されていた。今のご時世、スマホを含む通信機器は使い捨てである。それは劣化による買い替えではなく、機能的な部分での買い替えを指す。そのため、キーボード程度ならば毎年買い替えても財布のダメージは少ないため、安価な商品を複数試してもいいだろう。

 

・・それにしても「アイディアの国・日本」というブランドは、もはや崩壊していることを知った。日本にはなくても海外にはある、というものが割と多い現実を見せつけられたからだ。

まぁ、なにはともあれ全盲の父がiPhoneを手にする日は近いだろう。

 

サムネイル/視覚障害者用機器販売レッツ

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