二分の三拍子、サラバンド

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芸術とは程遠い人相とフォルム、そして人間性でできたわたしだが、ごくまれにクラシック音楽を聴くことがある。それらに造詣が深いわけではないので、どこのどういう部分に惹かれるのかは分からないが、気に入っている曲の一つに、ヘンデル作曲の「サラバンド」がある。

正式には、「ハープシコード組曲第二番HWV437第4曲『サラバンド』ニ短調」という曲だ。ちなみにサラバンドは曲名ではなく、17~18世紀にヨーロッパ各地の宮廷で踊られていた舞踊の一つで、ゆったりとした速度の三拍子の曲のことである。

・・と、曲の説明を文字で読んだところでピンとこないだろう。ところが、この曲のオマージュともいえる有名な曲がある。それは、風の谷のナウシカで使われている「ナウシカ・レクイエム」だ。

むしろ世間ではナウシカのほうが有名で、ヘンデルのサラバンドを後で知る人のほうが多いのではないかと思うが、1685年生まれのヘンデルが圧倒的に先である。

 

余談だが、ヘンデルが活躍していた時代はバロック音楽と呼ばれる年代のため、ピアノはまだ存在していない。よって、チェンバロやオルガンによる演奏だった。

見た目はピアノと似ているチェンバロやオルガンだが、音の作り方がまるで違う。いずれも鍵盤楽器であることに相違はないが、たとえばチェンバロは、弦をひっかくことで音が出るため、いわば弦楽器の延長なのだ。そして、オルガンは空気を送って音を出すため、リコーダーなど縦笛の仲間といえる。

これらに対してピアノは、弦をハンマーで叩くことで音を出すので、音の強弱がつけやすいという特徴があるのだ。

 

話をサラバンドに戻そう。ナウシカのレクイエムはどこか物悲しく重々しい雰囲気を感じるが、実際のところサラバンドは踊りの曲である。ゆったりとしたテンポで荘厳かつダイナミックな曲調は、卑しいわたしの心をも洗われる神々しさを感じるのだ。

そんな特別な曲ともいえるサラバンドを、まさかスーパーの菓子売り場で見かけるとは思いもしなかった。

 

(サラバンド・・・)

 

いつものごとく菓子を物色していたところ、突如、わたしの目に飛び込んできたのはこの5文字。サラバンドといえば、押しも押されるバロック音楽の代表格である。それがまさか、こんなところでお目に掛かれるとは。

 

パッケージには「あずみ野 サラバンド」と書かれている。一見、洋菓子にも見えるが、どことなく和風な雰囲気を醸し出す焼き菓子の模様。

すかさず手に取ってみると、裏面にこのような説明書きがあった。

「サラバンドをお買い上げ頂きまして誠にありがとうございます。(中略)新鮮な味を大切に生かして焼き上げたお煎餅に、やさしいホワイトクリームをサンドしました。」

なんと!これは煎餅なのか。どうやら長野県安曇野市にある老舗製菓店・小宮山製菓の代表作らしい。しかも、あえて「欧風せんべい」と主張するあたり、小宮山製菓の意地とプライドを感じる。

 

そして肝心のサラバンドという名称について、

「3拍子のスペインの優雅な踊り・曲(サラバンド)をホワイトクリームと生地で表しました」

と記されてある。やはり曲に由来する焼き菓子だったのだ。

上下には歯ごたえのある煎餅生地が構えており、爽やかな甘さのホワイトクリームを挟んでいる。見た目はウエハースの菓子に似ているが、指で押しても崩れる様子はない。さすがは煎餅――。

 

さっそく購入すると、すぐさま個包装を破り開け、欧風せんべい・サラバンドにかじりついた。

(・・おぉ、美味いじゃないか!)

チーズケーキやチョコレートといった、ゴテゴテの洋菓子が好みのわたし。ところがこの優しさ、いや、和やかさの塊であるサラバンドの「和菓子感」がたまらない。

 

ウエハースやゴーフルのようなホロホロの脆さではなく、ソリッドで誠実な歯ごたえが食欲をそそる。そしてよく見ると、ホワイトクリームは2層あり、外側と中心に煎餅生地があるので、サラバンドの「三拍子」は煎餅生地で表現されているのだと思われる。

ということは、間に挟んだ2層のクリームは二分音符を意味するのかもしれない。そう、サラバンドはしばしば「二分の三拍子」で作られているからだ。

 

 

なんとも奥が深い欧風せんべい・サラバンド。これは、わたしの菓子ランキングの上位に食い込むこと間違いなしである。

 

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