「体重、6キロ戻したよ!」
ウキウキしながら、わたしは友人に体重が減ったことを報告した。
「え?あと何キロ落とせばいいの?」
とんちんかんな質問をする友人。
「ん?べつにもう落とさなくていいよ。6キロ増えてたから戻したんだよ」
前にもこの話をした記憶があるんだけどな、と思いながらも説明をするわたし。
「えー、どうやって落としたの?こんな短期間に」
この一週間、ほぼ毎日飲食を共にしてきたのだから、わざわざ説明しなくても分かるだろう。
まったく彼女は、お嬢様ゆえに天然なのだ。
「全然食べなかったじゃん!食べる量を減らしたから、体重も落ちたんだよ」
分かりきった事実を改めて伝えたところ、彼女は驚きの返事を投げてきた。
「え、いつ減らしてたの?まさかあれで、控えてたつもり?」
・・・わたしは耳を疑った。
この一週間、どれ程ひもじい思いに耐えながら過ごしてきたと思っているのか。
サツマイモにジャガイモ、ニンジン、スナップエンドウ、豆腐、キムチ、ジャイアントコーン、アーモンド、ダイエット用クッキー、レンコン、シイタケ、柿、ミカン、シャインマスカット、リンゴ、ウインナー・・・。
このように、カピバラと同じような質素な食事で、飢えを凌いできたのである。
とくに辛かったのは、街を歩けば焼肉の煙に吸い寄せられることだった。
それでも歯を食いしばり歩を進めれば、通りがかりの中華料理から溢れ出る油の匂いに挫けそうになる。
だが「なにくそ!」と足を止めずに前進したところ、どこからともなく漂うクレープの甘い香りに包まれて、身動きとれない状態に――。
こんな想いを断ち切ってまで、わたしは草食動物のような食生活を送ってきたのだ。
とはいえ野菜や果物なので、量を気にすることはなかった。あんなもの、個体のほとんどが水分でできているのだから、どれだけ食べても体重は落ちる一方だからだ。
そしてようやく、6キロちょいの減量を達成したわたしは、満足げにその報告をしたわけで、「まさかあれで控えてたつもり?」などと言われる筋合いはない。
ところがスマホのアルバムを開くと、たしかに友人の言う通り「あれで控えてたの?」と、問い質さずにはいられないほどの、豪華な食べ物や飲み物の画像が収められていた。
(そういえば、十種類の焼肉を堪能するコースを、彼女にご馳走してもらったんだ・・・)
その翌日には、彼女と一緒に寿司屋で炙りサーモンを大量に食べた記憶がよみがえる。
食後は当然、カフェでコーヒーを飲んだわけだが、そこでもわたしは「湯蒸しチーズケーキ」と「アーモンドとバターのザントクーヘン」に加えて、コーヒー類を3杯ほど注文した気がする。
「ダイエットは明日から!」
と、笑顔でケーキを平らげた自分を、薄っすらと思い出す。
さらにその翌日には、デイリーヤマザキで「サーティワンアイスクリーム」と「桃入り杏仁豆腐」そして「ダイエット用クッキー」などを大量購入し、店内であっという間に平らげたことは記憶に新しい。
もちろん、デイリーヤマザキを紹介してくれたのは、この友人である。
そしてお決まりのように、
「明日こそ、ダイエットを始めるよ」
と笑顔で宣言していたわたし。
(・・・おかしい。何かがおかしい)
今日もせっせと焼き芋メーカーをフル稼働させて、焼き芋やら焼きジャガイモやら、焼きニンジンやらを作り上げた。
そして出来立てをハフハフ美味しくいただいたわけだ。
小腹がすいたら柿を貪り食い(4個)、それでも我慢できない時はリンゴに齧りつき(丸ごと1個)、どうしてもダメな場合はウインナーをつまみ(シャウエッセン1袋)、だましだましでなんとか空腹を避けて来た。
その結果、一週間で6キロの減量に成功したのである。
食べ物だけでしっかりと、減量を遂行したのである。
だがなぜか、カメラロールには美味そうな飲食物が保存されているのだ。
これらのご馳走を食べつつ、自宅では野菜や果物を大量摂取しつつ、それでも体重は6キロも落ちるものなのか?
わたしの捏造された記憶と、友人の確かな記憶との狭間で、なぜ6キロもの減量が可能だったのかを、考えずにはいられない深夜なのである。
*
ちなみに今日、彼女から食べ物をもらった。
「はい、ドーナツ」
もらい物のおすそ分けらしいが、ちょうど昨日、高校時代のミスドの話題で盛り上がったタイミングからも、なぜか心温まるおやつとなった。
ていうか、ダイエットしてるんだけど・・・。
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