(ぐわっ!薬指か中指が痛い!)
ピアノを弾いていると突然、電気が走るような鋭い痛みに襲われた。どの指かはっきりしないが、右手の中指か薬指で鍵盤を押した瞬間に、手首の外側から肘にかけて電気が流れたのだ。
とりあえず最後まで弾ききると、手のひらを反らせてストレッチを試みる。うん、ビリビリ痛む。
今日一日を思い返しても、手首を傷めるような動きをした覚えはない。にもかかわらず、急にこのような激痛が走ることなどあるのだろうか?
原因は分からないが、指を一定の角度以上にしなければ平気なので、とりあえず痛くならない形を維持しながらピアノの練習を続けた。
それでも最初のうちは、つい角度の限界を超えてしまい、何度も痛みに顔を歪めた。だがしばらくするとその状況にも慣れてしまい、不自然な手の動きではあるが、しっかりと弾ききることができるようになった。
人間とは思っている以上に単純な生き物である。不自由や不便な状況に対しても、ある程度浸かっていれば自然と慣れてしまうもの。
「中指と薬指は元から使えない指である」
という前提で気持ちを一新すると、アラ不思議。昨日までの中指と薬指の動きは消え、今ではまるでナウシカのオームのようなアーチが、鍵盤を左右に移動しているではないか。
こうして私は、指だか手首だかの負傷を気にすることなく一日を終えた。
*
首を傷めた。ついでに腰のあたりまで痛みが下りてきて苦しい。
顔を正面に向けたまま首を回すと、斜め45度くらいまでしか回らない。といっても、上体ごとひねれば斜め後ろまで見えるから、生活に支障が出るわけではないのだが。
(しかしこの痛みが続くと厄介だ。痛みが増す可能性だってある。今日のうちに整骨院にでも行っておくか)
「痛い」といっても騒ぐほどのものではない。日常生活は送れるし、動きに多少の制限が出るにせよ、いずれもカバーできる範囲のものだからだ。
とはいえせっかくの機会だし、挨拶がてら行きつけの整骨院を訪れることにした。
施術をしてくれるお兄さんに「首が痛い」と伝えると、その周辺の肩や背中を動かされた。右腕をグイグイ引っ張られて回されて、なんか痛いが我慢していると、
「お、入った」
さらに前後に動かして、
「おぉ、完全に入った」
と言われた。そのまま指先の方へ下りていくと、手首を引っ張りグネグネ動かされた。するとパキポキ音がして、なんとなく手首の違和感が消えた。そこで一言、
「5か所くらい外れてましたね」
と報告を受けた。
(・・・・・・)
言われてみるとここ最近、肩の可動域が狭い気がしていた。たとえば真上に挙手できなかったり、ある角度まで持っていくとガクッと力が抜けてしまったり。
しかしこれも、「原因は分からないが、仕方のないこと」とあきらめていた。なんせ、あきらめの良さが私のウリだからだ。
そして肩が痛くならない範囲で活動を続けた。どうせ痛くて回らないのだから、最初から使わなければいい!という考えの元、うまいこと右肩を上げたり回したりしない行動をとってきたのだ。
そんな生活に慣れてからは、右肩の痛みや違和感など忘れていた。
だが今、肩が回るようになった。360度しっかりと回すことができる。さらに挙手もできるではないか。
そして手首のほうもだ。手首というより、昨日ピアノを弾いていてビリッときた痛みが消えている。まさかあれは手首からくるものだったのか――。
私はもともと関節が緩い。手首など、自分で引っ張っても分かるくらいにぐらぐらしている。だからこそ少しずれても自ら戻せるのだが、いつしかそんな違和感にも慣れてしまい、戻すことすらしなくなっていた。
しかしながら、いま思えばここ最近は肩が痛かった。だが原因を究明するめんどくささよりも、痛みを受け入れて共存することを選んだのは私。
こうやって私は、痛みに強い女となっていたのだ。
*
つまりは、体のメンテナンスをたまにはするべきだと、密かに感じた瞬間なのであった。
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