昨日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。奇遇にも9年前の今、私はロシアの隣国であるベラルーシにいた。ロシア経由でベラルーシ入りしたのだが、まさかこのようなことになるとは、当時は想像だにしなかった。
ウクライナへの軍事侵攻におけるベラルーシの立場は微妙だが、ロシア軍はベラルーシから南下する形で首都キエフへ攻撃を行った様子。プーチン大統領は「ほかに選択肢はなかった」と述べたようだが、本当にそうなのだろうか。そうなると、北方領土の返還どころか北海道の安全は守られるのかどうか、不安を覚える。
日本は本当に平和な国だ。もちろんこれは最大級の嫌味であるが。狭い島国ゆえ「日本人が、小さくも幸せに生きられればいい」と、いつからか植え付けられたのだろうか、外を見ようとしない傾向にある。
最北端の日本である北海道からすれば、目と鼻の先にあるロシアがウクライナへ戦争を仕掛けたというのに、メディアは馬鹿の一つ覚えのように「今日のコロナ感染者数は・・・」などとやっているわけで、まさか日本が侵略されることなどあるはずもない、と考えているのだろうか。海外の各国はいい国ばかりだから、日本を攻めることなどありえないと思っているのだろうか。
9年前、ベラルーシの首都ミンスクを訪れた時のこと。平和ボケしていた私は、とんでもない勘違いをした。
真冬のミンスクは、路面は雪で覆われガジガジに凍っている。そして、あれは池なのだろうか。冬の間はスケートリンクとして使われている丸い敷地があった。そこをスーツ姿のビジネスマンが、レンタルスケート靴でスイスイ滑る姿はなんとも新鮮であり、いかにも外国であることを感じさせられた。
ミンスクの中心部では人の往来が盛んだが、少し離れると歩いている人などいない。もちろん、市民はバスや車を利用するわけで、道路を歩いてる人間がいないのは当たり前。
しかし私は、目的地へ向かう途中でバスか電車の駅があるだろうと高を括っていたため、7.5キロの凍った道を2時間かけて歩く羽目に。あの当時、Uberもなければ流しのタクシーが運よく通りかかるなんてこともなく、ただひたすら歩くしかなかったのだ。幸いにも現地での予定時刻までに十分な時間があったため、7.5キロを歩くことは大きな問題ではなかったのだが。
そしてその道中、数百メートルごとにミリタリーポリスが立っていた。私はミンスク市内の帽子屋で買った、大きな赤い星が描かれているロシア帽をかぶり、誇らしげに闊歩していたので、きっと「ベラルーシ大好きアジア人観光客」だと思われたのだろうと勝手に予想した。
目が合ったミリタリーポリスは、少しもニコリともせず私が通り過ぎるのを見送った。不愛想だと思ったが、ロシア系の人はどこか冷たい表情をするイメージもあるので、さほど気にも留めなかった。すれ違ったミリタリーポリスは5名以上いたが、仕事中ということもあり、まったく笑顔を見せることなく通り過ぎたのだった。
夜、ロシアに長く住む友人へ連絡をした際に、今日出会ったミリタリーポリスたちの話をした。
「あれだけMPが立ってれば、逆に安全だよね」
すると友人は、彼らがなぜ代わる代わる現れたのかを教えてくれた。
「あぁ、それはきっと怪しかったから監視されてたんだろうね」
なんと私はテロリストか何かと勘違いされたのか、ずっと付けられていたのだ。たしかに、日本人が第二次世界大戦の敵国・ソビエト連邦の象徴である「赤い星」の帽子をかぶって闊歩していれば、どこか怪しい気配を感じる。もしかすると何か企んでいるのか?と疑われたことで、私の行く先々でミリタリーポリスが待ち構えていたのだ。
よくよく考えると彼ら全員が、肩に装着していた無線で何か話している姿が思い出される。あれは、私の行く先を伝えていたのか――。
それまでの友好的なイメージが一気に崩れ、この国にいることが嫌になった瞬間だったが、それと同時に自分の無知さを恥ずかしく思うきっかけにもなった。
だれもが外国人大歓迎で、笑顔で手を振りながら出迎えてくれるなんて、そんな平和ボケした考えでこの国を訪れた自分を、ものすごく恥じた。
これまでも様々な国で危険な状況を見聞きしてきたが、自分がターゲットとして監視される経験は初めてだった。そしてこれはベラルーシという国が悪いわけではない。その国の過去も歴史も知らぬまま、バカな日本人が土足で踏み込んだ結果であり、彼らにとったら至極当然の行動をとったまでだからだ。
日本人はもっと海外へ目を向けた方がいい。できれば現地へ行った方がいいが、そこまでしなくても意欲的に海外を知ろうとすれば、回りまわって日本を知ることになるから。
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