今日のわたしは非常にナーバスである。なぜなら、パッと見では分からないかもしれないが、麗しき乙女が両手に散弾銃を抱えており、もしも事件に巻き込まれようものなら、別の意味で”大事件”となるからだ。
では、なぜそんな物騒なものを抱えているのかというと、散弾銃に限らずピストルやライフル、クロスボウ等を所持する者は、所轄の警察署にて年に一度、銃の一斉検査を受ける決まりとなっており、わたしが住む地域は本日が実施日だったわけだ。
ちなみに銃検査というのは、ただ単に銃器を持ち込んでチェックを受けるだけでは済まされない。過去一年間の使用実績として、どこの射撃場で何発撃ったかを証明するための資料(射撃場が発行するスコアカードなど)や、銃器や装弾を自宅保管している者は保管庫の写真と設置場所の略図の提出、ほかにも生活安全課の担当警察官との面接など、事前準備や現状確認が行われる。
しかし、ピストル時代から数えると15年以上の付き合いとなる高輪警察署の職員は、一般的なイメージ——堅苦しくて話の通じない警察官とは異なり、どちらかというと親近感がわく存在で、担当者も人間性が豊かなタイプが続くなど、ヒトに恵まれている点に感謝である。
いかんせんこちらも人間である以上、血の通ったやり取りができるかできないかで、相手への心証は変わるもの。それ故に、たとえちょっとしたことだったとしても、ボタンの掛け違いを防ぐ・・という点では重要な要素となるわけだ。
そして、銃検査を終えたわたしは、一見「楽器」に見える散弾銃ケースを両手に抱えて、高輪警察署からタクシーに飛び乗り自宅近くまで戻ってきた。
(スタバへ寄りたいな・・)
念のため釘を刺しておくが、装弾を所持していようがいまいが、銃を持ったままウロウロと徘徊してはならない。よって、必要最低限の生活行動(トイレの利用、射撃中の食料の調達など)として、やむをえずコンビニ等を利用する程度の寄り道しか、われわれ銃所持者には許されていない。
とはいえ、射撃をするために自動車での移動途中、体調面の安全を鑑みて銃ケースを携行したまま休憩をとる場合はある。だが、もしもその状態でトラブルに巻き込まれたりすると、ただでさえ厄介な状況が輪をかけて厄介なことになるので、よほどの事情がない限りは「寄り道することなく、目的地へ移動することを優先する」のが、常識的な安全性の感覚といえる。
そして当然ながらわたしも常識人なので、取り急ぎ自宅の保管庫へ銃を戻してからスタバへ向かうことにした。
とにかく、本日のミッションは「いかに大人しく控え目に問題なく過ごせるか」に限る。そのためにも、怪しい輩を避けて通らなければならない——大丈夫、ここはシロガネーゼの街。むしろ、わたしが一番怪しいくらいである。
周囲を警戒しながら静かに歩くわたしは、ペットボトルのお茶をすすりながら友人へメッセージの返信をしていた。そのやり取りの中で、「(諸々省略)・・わたしは、過去に警察および公安と揉めたことがあるから、むしろ安全だと思う」という内容を送ったところ、「その文面だけ読んだら、大反社か大物政治家じゃん」という、なんとも尖った返事が送られてきた。
これを読んだわたしは、思わずお茶を吹き出した。——なんだよ大反社って!!しかも、たしかに前後関係を無視すれば大物政治家がやりそうなことでもある!!
そんなわたしを訝しげな表情で見るのは、隣を歩いている男性だった。
(まずい・・これで通報でもされたら、わたしが危ない奴だと思われてしまう。決して危なくはないし、とても常識人であるにもかかわらず、こんなくだらないやり取りのせいで銃を没収されたのは、さすがに納得がいかない。とにかく平常心を取り戻そう)
そう自分に言い聞かせた直後、またもや友人からとどめの一撃が下された。
「(お茶を吹いたわたしを、怪しげな目で見る通行人に向かって)そのまま銃のケース開けたら、めちゃくちゃヤバイ映画のオープニングになりそう。新宿バルト9で上映するような、最後に伏線回収されるタイプの」
・・さすがにこれは耐えられなかった。そしてわたしは、本日二度目となるお茶を吹き出した。
ここでわたしが銃ケースを開けたとして、その後にいったいどんな展開が待ち受けているのか。たしかに、そんなオープニングの邦画があったら続きを見てみたい気はするが、その主人公がわたしというのはマズい。なぜなら、その先に待っているのは逮捕プラス銃没収という、絶大な威力のペナルティーだからだ——。
*
これ以上、友人と会話を続けるのはあらゆる意味で危険・・と判断したわたしは、慌ててスマホをしまうと、一心不乱に家路を急ぐのであった。
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