数日前、洗面所の電球を交換しようと照明カバーを外したところ、異臭を放つ大量の水が降ってくるという事件が勃発した。そこで管理会社に連絡をして、設備会社による状況確認が行われた。
わが家は最上階なので、上の階からの漏水はありえない。また、屋上にプールや貯水槽があるわけでもないので、天井越しに漏れるとすると”雨漏り”しか考えられないのだ。しかし、ボタボタと汚水が垂れる動画を見た設備業者の友人が、
「異臭がするということは腐敗している・・つまり結露で溜まった水の可能性が高い。となると、躯体の断熱工事が必要かもしれない」
と、合点の行く見解を示してくれた。
実際に天井裏を確認したわけではないが、この指摘というか予想はほぼ事実だろう。なぜなら、もしも雨漏りならば電球が埋め込まれているスペースのみならず、天井全体にシミができたりクロスが剥がれたりと、局所的な影響では済まないはずだからだ。
さらにわが家は、ビッシリと生えた黒カビを伴う「大結露祭り」が開催されるほど、外気との温度差が激しいことで有名。これらの条件からも、結露により溜まった水分が降ってきた・・と考えるのが妥当だろう。
そんなこんなで、自宅を訪れた業者に「バケツか何かで水をキャッチしないと、びしょ濡れになるよ」などと助言をしつつも、とりあえずカバーを外すことに成功し電球との対面を果たした。
業者からは「まずは電球交換を行ってから屋上を確認しますね」と言われたが、正直なところ、結露でも雨漏りでも原因などどちらでもよかった。洗面所の照明さえしっかりと点灯してくれたら——。
そんなわたしは、二つ返事で自分の仕事へと戻ったのである。
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電球交換が終わり、業者から声をかけられた。
「電気はつくようになりましたが、カバーを戻そうとしたら部品が劣化しており取り付けられませんでした。後日、専門の業者を派遣するのでしばらくお待ちください」
劣化の原因が単なる経年劣化なのか、それとも結露による錆びなのかは不明だが、「電気さえつけば問題ない」と考えるわたしは軽く受け流した。すると続けて、彼はこんな事実を伝えてきた。
「あと、電球が埋め込んである空間に手を入れたところ、天井裏からの風を感じました。ものすごい勢いで、引き込まれるように空気が吸い寄せられていて・・」
これはすなわち、気密性の高さを示している。外の気圧が室内の気圧より高いため、わが家に侵入しようと躍起になっているのである。たしかに、帰宅時に玄関のドアを開ける際、手の力だけでは重くて指を傷めそうなので、体重を使って背後に倒れるようにして開けており、それほど「室内が高気密」であることを示しているのだ。
(ということは、言い換えればわが家は”真空パックに近い状態”といえる。もしも給気口から毒物を送り込まれたら、排気が追いつかずにすぐさま室内に充満するだろう。そしてわたしは、あっという間に死に至るのでは・・・)
機密性の高いわが家ではあるが、壁掛け式のエアコンがなぜか壁に埋め込まれているため、天井付近しか暖めることができない。そのせいで、いつだってわたしの周りは寒々としている。
エアコン2基を稼働させているにもかかわらず、足元は別途ファンヒーターを使用しなければならないという、なんとも奇妙でカネのかかる欠陥住宅・・そんな不便な居住環境に加えて、外気がものすごい勢いで隙間という隙間を攻めていると知ったわたしは、ある種の恐怖を覚えた。何者かがわたしを殺そうと思えば、自らの手を汚すことなく簡単にヤれるのでは——。
さすがに、給気口から毒物を送り込むのは目立つしバレやすいが、照明が埋め込まれている空間あたりで毒を撒けば、あっという間に室内を毒素で満たすことができる。しかも天井裏なばら、業者を装えば自然と侵入することができるし、ダイソンの掃除機並みの吸引力とあれば犯人自身が毒を吸うこともない——マズイぞ、これは誰かに命を狙われているのかもしれない。
そんな恐怖と猜疑心に襲われたわたしは、ダウンジャケットを羽織りズボンを重ね履きすると、給気口をマックスに開放した。それと同時に、ベランダのドアと玄関を開け放ってやった。
(冬の寒さなんてどうってことない・・毒で死ぬよりマシだ!)
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冬寒く夏暑い最悪の室温環境の上に、大結露による黒カビ被害に耐えてきたわたしは、さらに「高気密による毒殺の疑い」に怯える日々を過ごさなければならないのであった。
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