賃金設定は一律にするべきではない・・と考える社労士の呟き

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改めて思うことだが、労働者に支払う賃金を一律に設定する・・というのは無理があるということを、政府はもっと積極的に理解するべきだろう。さすがに入社前では優劣をつけることは難しいが、一か月も働けばおよそ使えるかどうか・・おっと、いい人材かどうかの判断はできるはず。

当然ながら、人間には得手不得手を含む能力差があるため、できれば適材適所に配置するのがベター。だが、日本の中小企業にはそんな悠長なことを言っていられるほどの余裕はないため、ぎこちない歯車でも回し続けなければならないのが現実。

そうなると、否が応でも仕事の出来に差が出るわけで、たとえコーヒーを注ぐだけの仕事だとしても、要領のいい者とそうでない者とでは、スピードも美しさもまるで違うのだ。

 

そういえば、ダンプの運転手をする友人が「ユンボのオペレーター次第で、往復する回数が1回・・いや2回は違う」と言っていた。同じ残土を積むにしても、バケットの操作や残土の置き方によって、7杯しか積めない場合もあれば8杯いけてしまうこともあるのだそう。たかがダンプに土を積んで運ぶだけの作業とはいえ、現場を往復する時間や燃料費を考えると、一杯でも多く載せられる技術を持ったオペレーターに頼みたい・・と考えるのは当然のこと。

しかも、トラック野郎(?)は自身のトラックへの愛情が半端ないことから、残土を乱雑に積まれてボディを傷つけられるのを嫌うため、上手なオペレーターの前にはダンプの列ができるのだそう。

(あぁ、うらやましい。わたしも行列を作れるくらいの伝説のオペレーターになりたい・・)

 

このように、企業側にとっても顧客や取引先にとっても、優秀な労働者の存在はありがたいものなので、労務の対価としてできるだけ高額の報酬を支払いたい。しかし、その逆で仕事は遅いわユンボは壊すはダンプを傷つけるわ・・そんな労働者へは、報酬どころか修理代を請求したいくらいだろう。

さすがに、故意に破壊した場合は修理代を請求されるが、通常の業務内で起きた損傷についての弁償は難しいため、事業主が保険を使うなり費用負担するなり、泣く泣く対応することになる。そして、これを何度もあるいは何人もにされては会社の存続が危うくなるので、できれば安全な人間を囲いたい・・と願うのは当然のこと。それでも、慢性的な人材不足の日本においては、選り好みできないのが現実なのである。

 

であれば、企業への貢献度が高い労働者——ミスが少ない、作業が迅速かつ丁寧、顧客からの評判がいい、利益を上げてくれる・・などの特徴がある従業員への報酬を上げる反面、企業にとって悩みの種となる従業員(できる限りの指導やサポートを行った上で、それでも改善されない場合)の報酬を抑える方向へ、舵を切ることを許してもらいたい。

とくに、売ったら売っただけ儲かる職業ではなく、介護や障害福祉といった許認可制の業種に関しては、一か月の売上げがほぼ決まっていることから、出ていく部分で調整しない限り「儲かる」ということはない。それでも、最低賃金の厳守や競合他社との凌ぎ合いなど、賃金をある程度の水準でキープしておかないと人材が集まらないことから、フタを開けてみるとなかなか厳しい現実が待っているのである。

 

話は逸れるが、あくまで個人的な意見として、わたしには"雇われる側の姿勢"というものが大きく分けて二つある。まず一つは「言われずとも企業のために動くタイプ」だ。こういう考え方ができる者は、およそどの業種・職種に就いても重宝されるだろう。もっと言うと、日常生活でもモテるだろうし人望も厚いはず。そのくらい、仕事と人間性は密接にリンクしているのだ。

そしてもう一つは「完全歯車タイプ」だ。言われたことだけを黙々とこなすわけだが、機械化されるとこの手のタイプは不要となるので注意が必要。それでも、マニュアル通りかつフラットな意識と感情で、時間内ギリギリまで働いてくれる人材というのは、喉から手が出るほど求めている企業があるのも事実。他者とのコミュニケーションが不要な職場ほど、逆に、このような"ロボット型人間"が好まれる場合もあるのだ。

 

いずれにせよ、広義的な意味での「事業主の邪魔をしない」という点で、どちらも"労働者の鏡"といえる。そのくらい、雇われる側にもそれ相応の意識と覚悟が必要なのだということを、もうそろそろ覚えてもらいたいものである。

加えて、現行の厳しい解雇規制や賃金規定についても、もう少し実態に沿った柔軟さを加えるべきだ・・と思うのである。

 

 

・・・などと、わたしの関与前に作られためちゃくちゃな賃金設定に目を通しながら、これをどうやって均していくべきなのか、一人頭を悩ませる深夜なのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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