久々に新宿を訪れたわたしは、某百貨店の食料品売り場にて晩飯を物色することにした。
時間的に書き入れ時だったこともあり、あちこちから声を掛けられ引っ張りだこの人気ぶり。まずは、入り口で待ち構える”KINTAN”の焼き肉弁当、そして向かいにある韓国料理店でキンパとチヂミのセットとチャプチェ、さらに進んでうなぎ弁当、お口直しにボロネーゼとニョッキ、そして炙りたらことあおさのおむすび・・。
と、最後の「おむすび」を手にしたところで、「さすがにこれ以上は食えないだろう・・」と、心を鬼にして甘い勧誘を振り切ると弁当コーナーを脱出したのである。
これだけあれば十分すぎるほどの豪華かつボリューム満点な夕飯をぶら下げながらも、念のため食料品売り場をパトロールすることにしたわたし。いかんせんタイムセールが始まっているわけで、これを逃しては新宿まで足を運んだ意味がないからだ。
こうして、まんまとカットフルーツの抱き合わせおよびアップルパイに手を出し、さすがに満足したと言わざるを得ない状況に達したところでパトロール終了。満を辞して帰宅の途に就くことに——とその時、事件は起きた。
(この匂いは・・餃子だ)
デパ地下といえば催事コーナーが付きもの。そして本日は、宇都宮の餃子が実演販売されている様子——通り道でもあるし、とりあえずどんなものか覗いていみよう。
「さぁさぁ、一つ食べてみて!」
まるで”日本のおっかさ”んを代表するかのような、割烹着に三角巾を頭に巻いた女性から餃子を差し出されたわたしは、不可抗力でそれを口へと運んだ。
そもそも、焼き立ての餃子というのは美味いに決まっている。よって、おっかさんに食わせてもらった餃子も当然ながら美味かった。
それに加えて、なんたるサイズのデカさよ!東京バナナ2個分はあろうボリュームで、とてもじゃないが一口や二口では食べきれない。おまけに、餃子にかけられているタレと大根おろしの相性がまた抜群というかなんというか・・よし、もう一度確認してみよう!
こうして、ビッグサイズの餃子を3つほど食したわたしは、さすがにシレッとその場を去ることができず、おっかさんに免じて餃子を買うことにした。
10個、8個、5個——もうすでに大量の食糧を確保しているため、5個を2パックでいいだろう。しかも、どうせなら普通の味ではなく「にら」と「しょうが」にしてみよう。
「あらぁ、ごめんなさいね。しょうがは8個しかないわ」
——というわけで、8個入りのしょうがと5個入りのにらを購入したわたしは、帰宅するとすぐにこの餃子たちを食べ始めた。
温かいものから食べるのが鉄則・・ということもあるが、なにより餃子がある限りコイツのにおいですべてがかき消されてしまうため、早めに処理をする必要があるのだ。
(とりあえず1個ずつ食べたところで・・いい感じだ!)
そして二つ目に箸を伸ばしたとき、とある異変に気がついた。わたしは今、餃子を一つずつ食べたのだから、残りはにらが4個しょうがが7個のはず。それなのに、なぜにらが5個しょうがが8個なんだ——?
この歳ですでに耄碌(もうろく)したのかと一瞬焦ったが、紛れもなくにらとしょうがの二種類を味わった記憶があるし、現に餃子が二つ減っているのだから、食べたことに間違いはない。
ということは、パックに詰められた餃子の数が多かったということか——。
先ほど、おっかさんから3つの餃子を与えられたわたしは、その後5個と8個の餃子を購入したわけで、合計16個の餃子を食べる予定だった。ところが、それぞれ1つずつ多く入っていたわけで、そうなると正味18個の餃子を食べることとなる。しかも、ボリューム満点の個体を・・。
目の前には弁当的なものが6個とおむすび二つ、さらにカットフルーツとアップルパイが待っている。それなのに、餃子18個はさすがにやりすぎではなかろうか。かといって餃子がある限り、その残り香が空間を席巻するため放置はできない。とはいえ、餃子を全部食べたら弁当たちが・・・。
店頭で試食した3個の餃子と、購入した餃子に一つずつおまけが入っていたことで、一パック分の餃子を追加で食べることとなったわたしは、予想外の出来事に狼狽(うろた)えた。
——いや、そこではない。そもそも餃子を買わなければ・・違う、一気に食べなければよかったのだ。
*
こうして、嬉しい悲鳴をあげながらも一心不乱に餃子をやっつけ、その先で待つ弁当を迎え入れるのであった。
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