レッドロックキャニオンの呪いよりも恐ろしい副作用

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アメリカという国が、サイズから存在からすべてが桁違いだということは分かっている。ステーキの肉の厚みが、日本のスーパーで売っているそれよりも倍以上あるとか、アイスクリームの1スクープがおたま(レードル)くらいあるとか、目に見えるサイズ感の違いは十分理解できるのだが、実際に体験してみないと分からないものの一つに、「薬の効き具合」があった。

 

正直、あれが車酔いによるものなのかレッドロック・キャニオンに住む魔女の呪いなのかは不明だが、Calico Basin(カリコ・ベイスン)までドライブした際に、わたしは突然の体調不良に見舞われた。

まぁ、くねくねした道を走りながらスマホで調べものをしていれば、誰でも車酔いしそうなものではあるが、ベガス在住の友人からは「レッドロックキャニオンの呪いかもよ」と脅されたため、若干のビビりと同時に「ならば今回こそUFOを目撃できるかも・・」という期待を胸に、異国の地で二週間を過ごしてきたわけだ。

 

とはいえ、あれ以降は車で長時間移動することもなかったため、車酔いを心配する必要もなかった。だが今日、ついにレッドロック・キャニオンの深部へと侵入することになり、前回の経験を考慮した友人がスーパーで酔い止めを買ってくれたのだ。

(なんかフリスクみたいだな・・水なしでOK?)

こちらでは「ドラマミン」という酔い止めが有名だが、その形状は錠剤でも粉末でもなく、なんとグミなのだ。そして、グミだからこそ水は不要である上に、味はグレープとオレンジが用意されており、子供でも簡単に服用できる。

だが、友人が手に持っている薬は、スティックタイプの糊のような容器で、中には平べったいフリスク状の白い錠剤がガサガサと入っていた——どうやら、ドラマミンのジェネリックの模様。

 

水なしで飲める・・つまり、嚙み砕いて服用するタイプのようだが、日本におけるその手の錠剤は、舌にのせるとすぐに溶け始めるため、「噛む」という必要がほとんどない。だが、与えられた平たいタブレットは、しばらく舌の上に寝かせておいても変化がなかった——仕方ない、流し込むか。

こうしてわたしは、噛んで飲むタイプの酔い止めを水で胃袋へと送り込んだ。

 

そういえば、チラッと読んだ裏面には「乗車の一時間前に服用」と書かれてあったが、現にドライブの途中で服用しているので、あと一時間後・・つまり、十分ドライブを満喫した後に効果が出る可能性もある。

とはいえ、一秒でも早く吸収させるべきなのは間違いないので、ガブガブと水を飲むと、国に保護された未舗装の道を突き進んだのである。

 

 

結果からいうと、車酔いはしなかった。加えて、レッドロック・キャニオンの呪いも受けなかったため、ただ単に快適なドライブを楽しんだ・・といっても過言ではないだろう。

だが、薬の効果が表れたのは「その後」のことだった。

 

(・・ダメだ、重力に逆らえない)

身体が泥沼にハマったかのように、強力な粘着性をおびた重力によって起き上がることを妨げられた。頭の中はドロドロに渦巻いており、体を持ち上げようとする意志をことごとく打ち砕かれる——。

全身に重い鉛を纏っているかのような、手足を動かすことすら苦痛に感じる怠さを与えられたわたしは、思わず床に倒れ込んだ。なんというか、「ベッドで寝たい」というより「とにかくその場へ倒れ込みたい」という心境だったからだ。

 

これは明らかに、あの酔い止めの効果である。パッケージには「眠くなりにくい」と記載されていたので、アメリカ人にとってはそうなのかもしれないが、しがない日本人は同程度で眠くなるのだろう。

というか、眠いというより怠いのだ。正確には「耐えられないほどの極度の怠さ」に襲われており、これはもはや現実逃避イコール寝るしかない・・という意味では「眠くなる」といっても間違いではないが。

 

こうして数時間のあいだ、日本人にとっては耐えがたい”重力という泥沼の洗礼”を受け続けたわたしは、夜になってようやくその苦行から解放された。

(車酔いの気持ち悪さと超泥沼級の怠さと、この二択はどちらを選んでも厳しい現実が待っているわけだ・・・)

 

たかが酔い止め一つとっても、アメリカ人がタフであることがよく分かる。同じ地球上に住むニンゲンなのに、「こんなにも中身が違う」という事実を突きつけられると、驚きというより残念で仕方がない。

とはいえ、日本人のウリは「繊細さ」にあるわけで、タフさがなければそちらを磨けばいいのである。だが困ったことに、わたしはその繊細さにも欠けるため、どちらかというとアメリカ人に近づくほうが有効なのかもしれない・・という、絶妙に難しい選択をここでも迫られるのであった。

(とにかく、次回からは日本の酔い止めを持参しよう)

 

——何はともあれ、アメリカへ来て身を持って覚えた教訓の一つは、間違いなくコレなのである。

 

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