相談は、相談者のレベルで結果が変わる

Pocket

 

「ちょっとお仕事関係の相談をしたいのですが、相談料や相談方法など教えてもらいたい」

友人からこんなメッセージをもらったわたしは、軽くため息をついた。

 

このプレビュー画面を見たときは、正直「面倒だな・・」という感情が脳裏をよぎった。なぜなら、この手の相談でカネをもらうことは、さすがにできないからだ。

いくら社労士だからといって、ちょっとした相談事までカネをとっていたのでは、仕事とプライベートの線引きが難しくなる。よって、わたし自身が登場するかしないかで、報酬をもらうかもらわないかを決めているのだ。

そして、労働相談のほとんどは相談のみで解決できることが多いため、結局のところ「仕事」にはならない。だがこれも一種のプロボノであり、見ず知らずの他人ならばまだしも、気心知れた友人の相談なのだから、彼ら彼女らが笑顔になってくれるのは嬉しいわけで「良し」としている。

 

それでも、会社内でのトラブル・・とくに人間関係については、本人のみならず相手の性格や性質に左右される場合が多いので、なかなかスパッと解決するのは難しい。だからといって、そのことだけで転職するわけにもいかず、結局はメンタルを病んでしまったり——。

このようなことからも、社内における人間関係のトラブル相談は、聞くだけ聞いて励まして終わり・・というケースが多いので、こちらとしてもなんだか不甲斐ないのである。

 

そんなわけで、あまり気乗りしないままプレビュー画面をタップして内容を読んだわたしは、思わず「ほぅ」と声を漏らした。

「内容は、後輩が会社でいじめにあっており、上司に相談しても変化なし。不眠が続いていることから休職をしたい・・ざっとこんな感じです」

たったこれだけの文章だが、おおかたの予想がついてしまうわけで、これは友人の文章力に感心せざるを得なかった。

 

いったいどこが「上手い文章」なのかというと、最終目的が「休職」にあることが明記されている点だ。ただ単に「社内いじめに逢っている」だけだと、こちらの選択肢がいくつも浮かんでくるわけで、こうなると最初から最後まで話を聞かなければ、相談に対する答えを導き出すことができない。

だが、予め「休職」という着地点を示してくれることで、途中の内容を端折って休職にフォーカスすることができる。これは、相談者として非常に優秀であり、かつ重要な部分を押さえているといえる。

 

もしも「休職」というワードがなかったならば、

・いじめ、パワハラによる訴訟を起こしたい?

・会社に対して配置転換を要望できる?

・いじめのせいでうつ病になったらどうすればいい?

・仕事に行きたくないが、会社にどう伝えればいい?

・医療機関の受診は労災でいける?

・いじめが原因で退職したら、会社都合?

などなど、本人(この場合は、友人の後輩)が気になっている部分がどこなのかを、探らなければならない。ところが、友人はそこまで見越した上で「休職について」相談してきたわけだ。

 

繰り返しになるが、これは相談者として高度なテクニックを持っており称賛に値する。

日々、労使トラブルや同僚とのいざこざなど、他人の不仲について相談を受ける身としては、ただただ顛末を聞かされるだけでは時間が足りない。ところが、相談の切り口によっては「ほぅ」と聞く耳を持ってしまう・・という事実に驚かされたのだ。

(同じことをするにも、相手の気分を乗せるっていうのは大事なんだな・・)

 

それともう一つ、友人は"これらの内容を一回で送ってきたこと"が素晴らしい。

相手を慮るあまりに、「相談があるんだけど・・」という一文のみが送られてくることがあるが、これがわたしにとっては一番のストレスであり迷惑である。なぜなら、その返事は「なに?」に決まっているわけで、この無駄なターンを介さなければならない時点で、こちらのテンションは確実に下がる。

相談を聞くか聞かないかの判断をするためにも、どんな内容なのかを簡単に伝える必要はあるわけで、それならばそこまでをセットで投げるべき——。そんなちょっとした違いではあるが、友人は見事にやってのけたのだ。

 

(・・ある意味、完璧な相談の切り込み方だな)

 

 

というわけで、気分よく相談に応じたわたしだが、どちらかというと友人の文章力にやられたことのほうが、相談内容よりも印象に残るのであった。

 

Illustrated by 希鳳

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です