よく、男と女で「かわいい」の基準が違うことについて議論される。まぁ分からなくもない。どこに重きを置くかでビジュアルの評価は変わるわけで、それを否定するつもりもない。
だが明らかな美人は満場一致で手が上がる。つまり、ブスだのかわいいだのと議論されるレベルの顔面は、所詮その程度ということだ。
*
今日、写真に関する男と女の「見方(みかた)」の違いを、当事者として体感する機会を得た。といっても私のズボンのベルトを撮影し、友人へ送るだけのことだが。
その場には、ベルトを着けた私と、ベルトを撮影する男と、男の妻との3人がいた。男は私のベルトにカメラを向けると、カシャッとシャッターを切ってすぐさま友人へ送信した。
だがその時点で私と妻とは、男が写真を送信したかどうかは分かっていない。そこで、
「写真見せて!」
と、写り具合の確認を要求した。
ベルトの所有者である私は、その画像を見た瞬間に叫んだ。
「なにこのブスな顔!撮り直してよ!」
それとほぼ同時に、彼の妻がこう叫んだ。
「ちょっと、股が写ってるじゃない!」
我々二人は鬼の形相で男に詰め寄る。
とそこで、発言がかぶった妻の内容について、よく聞こえなかった私は「今なんて言ったの?」と聞き返した。すると妻は、
「え・・・だって股が、股間が写ってるからダメでしょ・・・」
と恥ずかしそうに答えてくれた。品行方正な彼女は、ズボンを履いているとはいえ、私の股間部分が写るのはよろしくない、と感じたのだ。
この考えには恐れ入った。当事者の私ですら、微塵も気にしていなかったからだ。さすがにそれが下着姿だったりすればアレだが、立派なズボンを履いているわけで、穴でも空いていない限りはどうでもよかった。
それよりも顔だ。あぐらをかいた私は、自分の腹を覗き込みながらベルトのデザインを指し示している。中途半端にうつむいたため、アゴの肉が重なっているじゃないか。しかも何かしゃべっている途中らしく、半開きの口と深く刻まれたほうれい線がやけに目立つ。
(なんで縦で撮るんだよ!ベルト写すだけなら、横で撮れよ!)
なおかつ頭のてっぺんから全て写っているならまだしも、目の辺りから膝までの範囲で撮影されているため、全てが中途半端。
そんな中、撮影者である男は目を瞬(しばたた)かせながら、唖然とした表情を見せる。女二人は男に詰め寄ると、その手からスマホをむしり取った。そして削除しようと画像を見ると、なんと既に送信済みではないか。
「なんで送ってるの!!!」
女二人は声を揃えて男を罵倒した。男はリアルに「空いた口が塞がらない」状態。それでもかろうじて言葉を放つ。
「だ、だって。顔はこのまんまじゃん?ブスって言っても、このままが写ってるだけで、オレ悪くないじゃん!」
そう言いながら、指で私の顔をグルグルと囲む。
「でも、股間が・・・」
妻が言葉を濁す。
「撮り方ってもんがあるだろ!」
私が割り込む。
実際のところ、男は何も間違っていない。彼の友人へ私のベルトのデザインを送ろうとしただけで、そこに関してはピントも明度も彩度も問題なく撮影されている。
だが当事者の私としては、顔が写るならば完璧な状態で撮影してもらいたいわけだ。普段からブスとか、そのまんまの顔だとか、そういう話ではない。少しでも良く写るための努力をさせてほしいのだ。そのためならば何枚でも撮り直していい。
そして男の妻としては、
「端くれとはいえ女。大股開きでは嫁ぎ先もないだろう」
と、私を気遣ってくれたのだ。そう、今回の撮影における主役のベルトでも、付属品の顔面でもなく、本来隠さなければならない「股間」に注目してくれたのだ。
*
同じ場所にいた3人が、全員まるで違う着眼点で写真を見ていた奇跡が、私の脳裏に焼き付いて離れない。
サムネイル by 希鳳
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