エコノミー最強戦士

 

「やはり」というかなんというか、昨日までの体調不良やら不慮の怪我やらの意味が、今日ようやく分かった。

不自然なほど立て続けに不運に見舞われる際には、そこに何らかの理由がある場合がほとんど。そして、昨日までの数々のダメージは今日のためにあったのだと、強く確信したのである。

 

——そう、わたしは今日ツイていた。ここで運を使い果たしたと言ってもいいくらい、ラッキーだった。

 

 

結膜炎のせいでコンタクトレンズの装着ができないわたしは、やむを得ず目が小ちゃくなる強度近視のメガネで空港へ向かうことにした。

海外という普段とは異なる環境へ身を置くのに、よく見えないメガネで移動するのは心許ないが、そんなことより目の方が大事である。というわけで、躓いて転んだりしないように「ほぼ和泉元彌」の歩様でそろりそろりとチェックインカウンターへたどり着いた。

 

そして、いざ荷物を預けて楽になろうと思ったところ、ここへ来てまさかの足止めを喰らう羽目に。

「あー、超えちゃってますねぇ」

若くて可愛らしい女性グランドスタッフが、やや残念そうに呟いた——そう、わたしのスーツケースが3キロほど重量オーバーしていたのだ。

 

仕方なく中身を漁った結果、iPadがまぁまぁな重さであることが発覚。そこで、渋々iPadを取り出すと改めてバゲージスケールに載せてみた——オイオイ、1キロも減ってないじゃないか!?

 

iPadを単体で持ってみると結構な重さを感じるので、「これ一つで3キロくらいいくんじゃないか」と、タカを括っていたわたしの重量感覚が恐ろしい。

(自分の体重は簡単なのに、他人の重さを調整するのって難しいものなんだな・・)

とはいえ、このままでは超過料金をとられてしまう。そこで、再び中身を物色し今度はしっかりとした手応えのある「体重計」を取り出した——さすがに、これで大丈夫だろう。

 

「んーー、あと1.5キロですねぇ」

非情にもスケールは規定重量より1.5キロ重い数字を示している。だが、これ以上取り除けば手荷物が増えるし、さすがにもう無理だ・・と泣きそうになっていたところ、若くて可愛い女子が突如こう囁いた。

「頑張ってくれたんで、もうこれでいいですよ」

 

なんと、実際の数字ではなくわたしの努力を汲んでくれた模様。しかも、「ちょうど先輩も見てないし、送っちゃいましょう」と、謎の本音と共にスーツケースをベルトコンベアに載せてくれたのだ。

(あぁ、なんてラッキーなんだ・・)

 

これだけでも、わたしにとってはかなり嬉しい出来事だったが、実のところ「真のラッキー」は機内で待ち受けていた。

 

それは何かというと、先ほどの可愛らしいグランドスタッフと共に選んだ座席——後ろから2列目の三人掛けの窓側が、わたし一人で使えることになったのだ。

これはかなりデカいラッキーである。東京→サンフランシスコ間の長旅で、課金なしで完全なるフルフラットが実現するなど、滅多にない棚ぼた。
しかも、周りはどこも一つ飛ばしで満席だというのに、わたしの列だけが二つ続けて空席という、そんな奇跡的な偶然があるだろうか。

 

このように「誰もがうらやむ、奇跡的なラッキー」を手に入れたわたしは、まさに心の底から思った。昨日までの数々の不運は、このための準備というか試金石だったんだ——と。

ぎっくり腰だの膝がズレるだのめまいだの結膜炎だの、散々な仕打ちに遭ってきたわたしだが、あれらはすべて、この「フルフラットを手に入れるための儀式」だったと思えば得心が行く。

 

わたし以外のエコノミークラスの客全員が、窮屈そうに縮こまっているにもかかわらず、わたしだけが堂々と手足を伸ばして横になっている。仰向けもうつ伏せも横向きも、なんなら大の字になって寝ることもできるわけで、今のわたしはエコノミークラス最強である。

(もはや、ここで運を使い果たしてもいい。課金せずとも機内で快適に過ごせるのならば、持っている運を絞り尽くしたって構わない・・)

 

こうしてわたしは、エコノミー最強戦士となったのだ。

(あぁ、なんて快適な空の旅なんだろう!なんてわたしはツイてるんだろう!!)

 

 

フルフラットのおかげで、痛みや不調はどこかへ消えてしまったのである。

 

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