不審死を遂げた仏、起死回生を誓う。

 

ふと目が覚めると、ソファから身を乗り出し床に顔をこすりつけた状態で寝ていたわたし。

(えっ・・いつ寝たんだ?!)

この状態で発見されたならば、明らかに不審死を遂げた仏である。ソファへ横たわった状態でデスクに手を伸ばそうとしたところで、心筋梗塞かなにかで瞬時に意識を失い上半身が床へ落ちた・・というのが、状況説明としてはしっくりくる。そのくらい、通常ではありえない形で寝落ちしていたのだ。

 

そして、そんな不審死を招いた原因は「PA配合剤」という非ピリン系の総合感冒の仕業である。

PL顆粒という名前の薬を聞いたことのある者は多いだろうが、あれの後発品(ジェネリック)がこれである。効果としては、のどの痛みや頭痛をやわらげ、鼻水やくしゃみを抑えるといった、いわゆる風邪の症状緩和の薬なのだが、いかんせん副作用の「眠気」が半端じゃない。

 

日頃から健康体なわたしは、滅多なことで風邪をひかないし薬も飲まない。だが今回、タイミング悪く海外渡航前ということもあり、最短で症状を改善するべく人類の英知の結晶である医薬品の力を借りることにした。

その結果、抗ヒスタミン薬が入ったPA配合剤を飲んだところ、いつの間にか意識を消失し夢の国へと飛ばされてしまったのだ。

 

(それにしても、こんな格好で4時間も・・ありえるのだろうか)

自らの意思など関係なく、ありのままの姿で意識を失うこと4時間。夢を見た記憶もないので「夢の国」は嘘である。むしろ「無の国」を彷徨っていたわたしは、下半身をソファへ乗せたまま腹から先をはみ出させた状態で、フローリングに顔面をこすりつけるかのごとく不自然な姿勢で眠っていたわけだ。

 

時間を確認しようとスマホを手に取ったところ・・恐ろしい数の不在着信やメールが届いているではないか。

そりゃそうだ、平日の昼間といえば社会人がせっせと働く時間である。その最中にグーグー眠っていたのだから、関係者からレスポンスの催促があって然り。だがわたしは、薬の副作用のせいでそれらに気付くことなく、本当に「無の世界」を彷徨っていたのだ。

 

眠気を感じて仮眠をとる場合、そこには少なからず「己の意思」が介入している。それなのに今回、わたしは無意識のうちにこの世を旅立っていた。

これは非常に恐ろしいことである。

いかんせん、明日出国だというのにスーツケースにすら触れておらず、今日は今日とてピアノのレッスンやら9月入社の労働者に関する対応やら、普段よりも確実に時間に追われる一日となることが確定ていたにもかかわらず、意図せずして無の4時間を消費してしまったことは、わたしにとって厳しすぎる現実となった。

 

(やめよう・・症状など緩和しなくていいから、薬を飲むのは止めよう)

体調不良など、極論をいえば我慢すればいい。なぜなら、謀反を企てたウイルス軍とそれを討伐しようとする我が免疫軍とが、体内で死闘を繰り広げているからこその怠さや発熱なわけで、主であるわたしがそれを直視せずして部下たちの士気が上がるはずもない。

そうだ、大将たるもの正々堂々と敵を迎え撃つ覚悟でいなければならない。安全なところへ逃げ隠れするなど、天下の大将軍にあるまじき行為である!!

 

こうしてわたしは、点眼薬以外の薬を手放した。

さすがに、結膜の炎症だけはどうにかしないとコンタクトレンズの装着ができないため、ここは妥協できない。あとは、気持ちを強く持つことで免疫軍を鼓舞し、どうにかやっつけてもらうしかない——そんなことを思いながら、失った4時間を取り戻すべくせっせと仕事に励んだ結果、相変わらず目の充血はあるが、そのほかの体調不良(今日までに発生した数々の不具合)が、どれも気にならないぐらい回復していた。

腸腰筋の筋膜炎、耳石の浮遊、右膝の捻挫痛、発熱、倦怠感・・どれも、気がつかないくらい見事に消えているではないか。

 

こうなると、「病は気から説」の信憑性が高まってくる。強い意思こそが、フィジカルの健全を構築する唯一無二の手段なのだ・・ということが。ともあれ、身体が楽になったのはラッキーでしかない。やはり人間は、追いつめられると温存していた底力を発揮する生き物なのだ。

この調子で、我が結膜にて悪さをしているウイルスたちも、さっさと討伐されてもらいたいものである。

 

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