(なんか下っ腹が出てるな・・)
そう思い始めたのは昨年の終わり頃だった。漠然とした不安というか、なにか「嫌な感じ」を察知したわたしは、恥を忍んで周囲の友人らへ相談をしてみた。
多くの者は「食べ過ぎなんじゃない?」とか「それ、筋肉だよ!」など、適当な返事が多かった。さらには「年齢的なものかもよ」という意見もあり、自分自身でも「そうなのかな・・にしては、形っがハッキリしすぎているというかなんというか」と、半信半疑で聞いていた。
そんなわたしがまず疑ったのは、「子宮や腸の病気」説だ。子宮に腫瘍ができた友人らの話を聞くと、発見のきっかけは「なんか下腹が出てる、という感じだった」とのこと。まさに今のわたしと同じではないか。
中には「胎児の頭ほどのサイズ」と表現されるほど肥大した腫瘍を取り除いた者もおり、たしかにそこまで大きな異物が体内に埋め込まれていれば、外から触れても「なんか変だ」と感じるのは当然だろう。
(そう考えると、これは五つ子の頭部くらいか・・)
いずれにせよ、早急に手術が必要となるであろう状況であることには変わりない。だが、病院へ行くことが億劫なわたしは、婦人科の受診をためらった——検査が嫌だとか、病気を知るのが怖いとか、そういう理由ではない。ただ単に、病院へ行くことすなわち「どこかへ出かけること」が面倒だからだ。
すると、医療関係者である友人がこう教えてくれた。
「下腹部が全体的に隆起していることを考えると、子宮筋腫とは違う気がする。仮に、卵巣腫瘍で腹水が溜まっているとすると、たしかにお腹が飛び出るけど、そんなふうにボコっと出るんじゃなくて、全体的に風船のように膨らむはずだよ」
なるほど——ということは子宮や卵巣の影響ではなく、大腸や小腸といった消化器官の病気か、あるいは肝臓や膵臓のまわりにこびりつく内臓脂肪が原因・・というわけか。
思い返せば、誰がどう見ても健康とは程遠い暴飲暴食を続けてきたわたし。あれだけ好き放題やってきて、内臓が悲鳴をあげていないはずがない——。
こうしてわたしは、食生活を改善するべく人生初のダイエットを始めたのである。
*
ダイエットを開始して二カ月が過ぎた頃、わたしの体重は微動だに変化せず、ぽっこりお腹も健在だった。これはすなわち「消化器系の病気が確定したこと」を意味するわけだ。
病院へ行くことが面倒なわたしは、可能な範囲で病気の可能性をつぶすべく、食事管理ダイエットを始めた・・というのが正直な理由。
そして、内臓脂肪が減るのに数カ月かかるとのことなので、少なくとも二カ月は様子を見るつもりで過ごしてきたのだが、摂取カロリーを今までの3分の1に減らしているというのに体重は減らず、下腹部の隆起はむしろカットがハッキリとしてきている気がしなくもない——要するに、内臓脂肪ではなく、消化器官にデカい腫瘍があるということか。
個人的には「内臓脂肪説」を強く推していたので、それが「おそらく違うだろう」と判断された時点で、残すは「巨大な腫瘍説」の一択となってしまった——ここまでくれば、もはや言い逃れはできない。わたしは、病気と正面から向き合わなければならないのだ。
ちなみに、ある友人から「反り腰とリブフレアによる、ぽっこりお腹説」を指摘されたため、それ以来、骨盤を後傾させるトレーニングや、反り腰にならないよう姿勢を維持する生活を送るようになった。
そのおかげか、意識的に骨盤を後傾させるとぽっこりお腹は引っ込むようになり、一件落着・・と思ったが、わたし自身が納得できるほどの「平らなお腹」ではないので、やはり”消化器官の腫瘍説”を払拭しきれなかった、という余談もある。
このように、わたしがどれほど「異常な硬さで飛び出ている下腹部」を気に病んでいたのか、他人には到底理解できないだろうが、ある意味「死を覚悟」するくらい重く受け止めていたのだ。
そしてついに、消化器内科の門を叩く日が訪れた。あぁ、これが「終わりの始まり」なのかもしれない——。
*
どうせ死刑宣告を受けるならば、気のいい先生から言い渡されたい。
あと、便の検査や内視鏡検査を受ける覚悟もつけていきた。体内に異物を挿入されるのはいい気分ではないが、ここ最近は歯の治療で口腔内へ器具を突っ込まれているため、肛門から内視鏡の管を通されても耐えうるだけの耐性はついているはず。
しかも、ぽっこりお腹の症状が出てから三か月が経過しており、悪性腫瘍であればそれなりに進行しているだろう。その結果、「残念ながら、かなりの大手術が必要となります」と、深刻な表情でドクターが説明するシーンを繰り返し想像し、その際のわたし自身の表情まで考えた——できるだけ、穏やかな笑顔でいよう。
悪性腫瘍の存在を知る覚悟と同時に、これまでの人生で起きた様々な出来事が走馬灯のように脳内を巡る中、ドクターの触診と腹部のレントゲン撮影を終えたわたしは、衝撃の事実を告げられた。
というか、あまりに衝撃的すぎて一瞬なにを言われたのか理解できないほど、まさかの事実・・いや、「現実」を知らされたのだ。その結果、とにかく公に発表しなければ落とし前がつかないほど、大きなダメージを受けたのである。
「筋肉と便ですね」
ドクターは表情を変えることなく、真面目な顔で淡々と説明を続けた。その隣でレントゲン画像を見ているナースも、なんら変化を見せることなくドクターの話に頷いている。
たしかにわたしは、一般的には理解不能なほどの筋肉量である上に、「大」の回数が少ない。
数えたことはないが、最短で三日に一回・・長ければ一週間排便せずとも、苦しいとか不快だとか違和感を覚えることはないのだ。おまけに、薬を使って排出を促したこともないので、今までの人生で「便秘に悩まされる」という経験はなかった。
そんな話を聞いたドクターは「薬を使わずに排便できているならばいいですが・・とりあえず漢方薬を飲んでみますか?」といって、大建中湯(ダイケンチュウトウ)という名の漢方の説明をしてくれた。
ちなみに、「馬のエサ」と揶揄される野菜(食物繊維)中心の食生活にしてから、そういえばおならの回数が増えたし、ニオイも強くなった気がしていた。肉を食べているわけでもないのに、なぜ——。
それはすなわち「腸内の細菌バランスが崩れ、悪玉菌が増えたことでガスが発生しやすくなっている」ということだろう。健康的な食生活であるにもかかわらず、おならという症状に変化が現れているのだから、やはり腸に異常があるに違いない。
そう思っていたのだが、消化器内科の専門家いわく、
「食べるものによって変わるんですよ。食物繊維が多いとおならの原因になりますし、あとは発酵食品・・納豆とか食べていませんか?そうすると、ニオイのきついおならになりますよ」
と、笑顔で一蹴されたのだ。
(あぁ、なんてこった・・・)
*
言われてみれば、仰向けに寝ると腹部はぺったんこになる。ドクターも「寝たら引っ込みますよ、ほら」といって笑っていた。
これは、ぽっこりお腹を構成組織しているのが、脂肪ではなく「分厚い筋肉」であることを示しているのだそう。わたしは、「そりゃ、寝れば誰だって腹は引っ込むだろう!」と突っ込みたくなったが、どうやら脂肪の場合はそうならないのだそう。脂肪って、そういうものなのか・・。
大量の漢方薬を抱え、それでも腑に落ちずに首をかしげながら帰宅する、筋肉質かつ便を溜め込む体質のわたしなのであった。











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