ラスベガスに来て早一週間が過ぎた。相変わらずUFOは目撃していないが、もうそろそろ遭遇するんじゃないか・・と、密かに期待をしているところではある。
そんなわたしに、突如”とある変化”が起きた。それは何かというと——ネコが懐くようになったことだ。
そもそもわたしは、誰がどう見てもネコではなくイヌ派である。さらに、カピバラ好きなことから”ネズミ派”を名乗ってもいいくらい、ネコとは敵対する立場にいるわけだ。
そのためか、日頃からネコを見てもこれっぽっちも可愛いとは思わない。これが、嘘でもいいから「ニャーン」とすり寄ってくれば、まぁ仕方ないな・・と撫でてやらなくもないが、当のネコときたら無関心なすまし顔でわたしを無視するのだから、どこをどうしたって可愛いとは思えないのである。
とはいえ、なぜかネコを飼っている友人・知人が多いので、望まずともネコの話題に触れたりSNSでネコの画像を目にしたりと、少なくともインコやカメよりは近い存在かもしれない。
そんなネコ嫌い・・いや、ネコ無関心なわたしに向かって、事もあろうかネコたちが寄ってくるようになったのだ。
さすがに一週間も同じ空間にいれば、ネコのほうも「なんかこいつ、見覚えがあるな」となるのだろう。最初はわたしを警戒するあまり、近寄らないどころか姿すら見せなかったのが、ついに今日、わたしの足に絡みつくようになったのだ。
(なんか痒いな・・・なぬっ!!)
テーブルに向かって仕事をしていたところ、何やらくるぶしあたりにこそばゆい感触を覚えた。そこで、逆足でくるぶしを掻こうとつま先を伸ばした瞬間・・なんと、そこにはクリーム色のフサフサしたネコの尻尾があるではないか!
さらに、股の間には小さな黒いネコが寝そべっており、わたしは足元にネコを二匹従えた状態でパソコンを叩いていたのだ。もちろん、エサやおもちゃで釣ったわけではないし、ネコを呼んだ覚えもない。言うまでもなく、心の奥でネコを欲することもないし、なんなら近づいてほしいとも思っていなかった。
そんな”ネコ無関心オーラ”をバリバリに放つわたしの足元に、不思議なことにネコたちが集結したのだ。
仕方がないのでキーボードを打つ手を止めると、クリーム色のネコの背中を掴んでみた。すると、ゾクッとした素振りと同時に背中を山のように尖らせると、スタスタとその場から去って行った——カピバラはあれで喜ぶんだが、ネズミの捕食者たるネコは違うのか。
そこで、もう一匹の黒いネコに手を伸ばしてみた。こちらはまだ子どもなのだろう、体も小さいしどことなく怯えた目をしている。そして、先ほどと同じように背中を掴もうとしたところ・・・なんと、黒猫が嚙みついてきたのだ。
(いてっ!!・・ってほど痛くもないな)
勝手なイメージだが、釣り針が指先に引っかかったかのような、細くて尖った何かがわたしの人差し指に絡んだ感じ。——あぁ、子ネコの歯ってこんなにも華奢な鋭さなのか。
その後、ころんとひっくり返った黒ネコは、わたしに腹を見せながら「撫でろ」と催促をしてきた。言われるがままに指先でごにょごにょと腹や胸、アゴの辺りをくすぐってやると、今度はその手を前足で挟んで、またもや嚙みついてきたのだ。
(い・・痛くはないけど、ちょっと痛いじゃないか!)
動物特有の”甘噛み”というやつだが、そもそも歯が鋭いのでチクリとした刺激を感じる。まぁ、コイツもそれなりに状況を理解をしているようで、決して全力で噛んだりしないところが小憎らしい——。
元来、イヌ派でありその後ネズミ派(正確にはカピバラ派)を名乗るわたしは、ネコというのはある意味「敵」といえる存在だった。にもかかわらず、敵のほうから無邪気にすり寄ってこられると、ついつい甘やかしてしまうところがわたしの弱点であり、つけ入る隙を与える原因ともいえる。
(こうやって静かにニンゲンの懐へと入り込み、すべてを持ち去るのがネコの恐ろしさなのだろう。やっぱり、ネコは宇宙からの使者説が有力なわけだ・・)
*
何はともあれ、キミたちが望むならばいくらでも撫でてやるから、とにかくUFOを誘い出してもらいたいのである。
コメントを残す