麦飯とホルモン

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「こぎたない」というと悪口に聞こえるが、一流ホルモン店の条件の一つに「こぎたなさ」は欠かせないわけで、ホルモン店に限ってこれは紛れもなく誉め言葉だ。

そんな一流のこぎたなさが魅力の、炭火焼ホルモン店へ連れて行ってもらった。店の名はホルモンまさる。JR田町駅から徒歩数分の立地にもかかわらず、中野区や台東区のような下町っぽい雰囲気を醸し出すいい感じの店。

 

「ここ、普段は入れないからびっくりだよ」

 

案内人の友人が驚きの表情でそう話す。時刻は14時ということで、ランチにしてはやや遅め。さらに祝日の田町駅界隈は学生も会社員も不在のため、狙い目だったのかもしれない。

 

私にとって「炭火焼ホルモン」は、その言葉を聞くだけでよだれが出るパワーワード。ましてや「こぎたない」「せまい」「ボロい」「パイプ丸椅子」「七輪」「ほぼ屋外」とくれば、仮に肉がイマイチでも雰囲気でひっくり返せるから不思議だ。

とはいえ、ここの肉は普通に美味いから困る。なにが困るのかといえば、次回来たときに混んでいて入れない可能性が高いから、困るのだ。

 

どうか皆さん、この店の存在に気付かないでもらいたい。

 

とりあえずは駆けつけ一杯ということで、私はトマトジュースを注文。しばらくすると「一番搾り」の大ジョッキになみなみと注がれたトマトジュースが登場した。

「一番搾り」の文字の下に、ビールのしずくをイメージしたイラストがあるが、それがトマトジュースを背景にすると血液のピクトグラムにしか見えない。

(・・グビグビと血を飲むのか)

まぁそれでもいい。血液でもトマトでも、体にとっては良さそうだからどちらでもいい。

 

私の好きなホルモンは、片側がブヨブヨと盛り上がっていて逆側がサラッとしたシートのような形状のホルモン。多分、シマチョウとかマルチョウとか、そんな名前の肉。

ホルモンのカタチを説明すると、友人はすぐにピンと来た様子で注文してくれた。さらに彼女が何種類もの肉を選んではジャンジャン焼いてくれるため、瞬く間に私の麦飯は肉で覆われた。

 

そう、この店は白米ではなく麦飯が出る。

 

米好きな私は当然ながら、肉と米は分けて食べる。まずは肉を食べて、それから米を食べる。ではなぜ米の上に肉を乗せるのかといえば、特に意味はない。肉の脂をちょんちょんするわけでも、タレの味を米にしみこませるわけでもなんでもない。

ただ、

「取り皿に乗せるより麦飯の上に乗せたほうが、口への距離が近くなるからこぼしくにくくてちょうどいい」

という程度の理由だ。

 

付け加えるとここの麦飯はうまい。白米にはない噛みごたえと、麦飯特有の草っぽいような材木っぽいような風味が、貧しさを思い知らせてくれるようで胸に刺さる。

(そうだ、私は貧しいのだ。よく噛んで食事を楽しまなければ、生きている価値などない!)

 

こうして、清貧界の代表としてありがたく麦飯をいただいた。

 

 

各種ホルモンと麦飯、そして大ジョッキで飲み干すトマトジュースと水。腹も心も満たされたところで店を出る。

相変わらず現金を持参しない私は友人に支払いをさせ、後から得意のPayPay送金にて半額を送りつけてやった。さらにちゃっかり領収書までもらっておいたので、自分の経費に突っ込んでやろうーー。

 

帰宅すると直ちに着ていた衣服を洗濯する。やはり雰囲気のあるホルモン店から帰ると、髪や衣服に煙のにおいが付着しているため、洗わなければならない。

気分よく洗濯機を回した一時間後、出来上がった洗濯物を干す。

 

ズボンのシワをパンパン叩いていると、ポケットに膨らみを感じる。触ってみると何やらゴミのようなものが。ゴソゴソ取り出すと、しわくちゃの白い紙だった。

 

(・・・・・)

 

そう、あのこっそり手に入れた領収書だ。きれいに広げてみるが、金額どころか日付も店名も何もかもがなかったことにされている。透かして見ても変わりない。ドライヤーで乾かしてみても、もちろん変化はない。

 

こうして私に残されたのは、メシが美味かった記憶と、一円の価値もない元・領収書だけだった。

 

 

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2件のコメント

近所の安美味のホルモン屋さん、たしかに小汚くて狭くて古い。看板は古ぼけて焼け焦げの跡はあるし、机も壁も脂焼けしてテカテカなんですけど意外なくらいベタベタしてない。異臭も全くない。小汚いけど不潔な感じはしないんです。まぁ飲食店なので当たり前ですが。ホルモンまさる、近々食べに行きます。絶妙なご紹介ありがとうございます。

ちわさん、お読みくださりありがとうございます!
そうなんですよ、「不潔」と「こぎたない」って、全然違いますよね😁

オススメのホルモン屋、まだまだあるのでまたご紹介しますね笑

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