所用で某高級ホテルのジャズラウンジを訪れたわたしは、早速、入り口で門前払いを食った。
「大変申し訳ございません。サンダルでの入店はお断りしておりまして・・・」
たしかに、わたしはビルケンシュトックのサンダルを履いている。しかし、サンダルとはいえ高級サンダルである。天然コルクや天然ラテックス、ジュートといった、再生可能な資源から採取される高品質な天然素材をふんだんに使った、オリジナルフットベッド(いわゆるインソール)に、高級感あふれるスエードのアッパーが足の甲を柔らかく包み込む、SDGsを意識した高級カジュアルサンダルである。
つまり、称賛されることはあれど非難される覚えなどないわけだ。
しかしどんなに力説したとて、その思いが伝わることはない。
「当店のドレスコードで禁止となっておりますので・・・」
若いおねえちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
とその時、わたしの横を外国人のカップルが店内へと入って行った。観光客であろう二人は、ラフなTシャツにダメージ加工が施されたデニムのショートパンツ、女性に至ってはホットパンツ(さらに短いショートパンツ)を履いているではないか。
しかし足元は辛うじて、ナイキのスニーカーを履いている。
(・・・彼らがOKでわたしがNGな理由って、サンダルか否かという部分だけだよね???)
ちなみにわたしの足先を補足すると、つい先日ネイルのメンテナンスをしたばかりで、モスグリーンに金箔を貼り付けたゴージャスな仕上がりとなっている。さらにかかとの角質までケアしてあるため、足先だけでいったら、このラウンジにいるどの女よりも手入れが行き届いているはず。
おまけにブラジリアン柔術で培った「使える筋肉」も豊富にくっ付いているため、価値でいったら相当なものだろう。
にもかかわらず、あっちの超カジュアルカップルは「スニーカーだから」入店できて、わたしはどんな理由があろうが「サンダルだから」入店拒否なのだ。
念のため考えてみよう。これはいったい、何のためのドレスコードなのかを。
一般的にドレスコードとは、その店の雰囲気や高級感を損なわないために設定されるもの。そしてあれこれ例外を作らないためにも、一律で「サンダル禁止」「デニム禁止」「ノースリーブ禁止」などと謳っているわけだが、ミュール(かかとに留め具が付いていないヒール)やヒールのあるサンダルはどうなのだろう。ラグジュアリーなミュールやヒールサンダルでも「お断り」されるのだろうか。
とはいえ「ルールですから」といわれればそれまでだし、オーナーの意向に沿えない客は断られても仕方ない。逆の立場で考えれば当然のことでもある。
まぁ、わたしのサンダルがNGなのは認める。洒落た雰囲気の高級ラウンジにおいて、やはりカジュアルサンダルは相応しくないからだ。ではなぜ、あの外国人カップルはOKなのだろうか。
誤解のないように補足するが、彼らが入店拒否されなくてよかったというのは、言うまでもなく本音である。わざわざ日本を訪れてくれたにもかかわらず、服装ごときで断られたのでは、せっかくの思い出が台無しになる可能性がある。
「だったら、その店へ行かなければいいじゃないか」
となるのは当然だが、ドレスコードに不慣れな観光客にも、ちょっとだけジャズを楽しむ機会を与えてはもらえないだろうか。せめて最低限の衣装やシューズのレンタルなど、用意してはもらえないだろうか。
かくいうわたしはなんと、今日に限ってパンプスを持ち歩いていた。ピアノの発表会に向けて、ヒールのある靴を履いて練習をしたため、正真正銘最初で最後のパンプス持参日だったのだ。
というわけで入店拒否された数分後、ビルケンシュトックのサンダルからトリーバーチのパンプスに履き替えたわたしは、入り口で仁王立ちした。
「い、いらっしゃいませ!」
店員の顔には明らかに「ヤバい奴が来た」と書いてあったが、ドレスコードはクリアしている。さぁ、店内へと案内してもらおうか!
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