バレエにピアノとくれば、女子ならば一度は夢見る習いごとではなかろうか。まぁ、本人の意思に関係なく親の願望という場合も多いとは思うが。
そしてわたしは、この2つから最もかけ離れた存在であると自負している。見た目で人を判断してはいけないが、やはりゴリラっぽいゴツゴツしたオンナが、バレエだのピアノだの言いだしたら、聞き手の口元はゆるむだろう。
そんなゴリラに、バレリーナとピアニストが降臨した。
降臨部位は指。ふと自分の指を横から見ると、ややいびつに曲がっている。いや、いびつに伸びているし曲がってもいる、という複雑な状態。
どういうことかというと、ブラジリアン柔術というものを長く続けていると、指の第一・第二関節が道衣と擦れて硬く黒ずんでくるのだ。第二関節など、フリーメーソンのシンボルのような「目」が出来上がっている。
「目」をそっと撫でると、皮膚は厚くガサガサしており、干しぶどうに見えなくもない。指の内側の、なめらかで柔らかい皮膚と比べるとまるで他人のよう。その硬い皮膚のせいで指が外側へ引っ張られて、第二関節がピーンと伸びてしまうのだ。
そのまま先端へと指をなぞると、第一関節から爪に向かってなだらかな傾斜が登場する。第一関節も第二関節と同じく硬化しているが、どちらかというとタコができたかのようにツルツルで平べったくなっている。そしてタコを起点にすべり台が形成され、そこをすべり下りると指も終わり。
つまり指全体を横から見ると、指のつけ根から機械的な水平さ(やや反るほどの)で第二関節を通過し、第一関節から10~20度ほど下りの傾斜が現れて、すぐさま闇へと消えていく。そんな形状となっている。
肘や膝を見れば分かるが、筋肉や脂肪の厚み、骨の大きさ、そして皮膚の隆起などにより「真っすぐ」ということはあり得ない。ところが指の表面については、さほど筋肉も脂肪も影響しないため、関節部分の隆起のみが「人間らしい真っすぐさ」を作り出している。これはすなわち「まっ平ではない」ということだ。
ところが指関節を酷使し続けた場合、人間の体はさまざまな変化を見せる。その一つが「皮膚の硬化」であったり、「タコができる」であったり、結果的に「皮膚が引っ張られる」という症状につながっていく。つまり、自然にこのような「まっ平」は創造されないからこそ、逆に不自然なのだ。
そしてこのいびつな「第二関節が真っすぐ」と「第一関節から傾斜」を見ながら、わたしはふとあるものを思い出した。その「あるもの」こそが、バレリーナの足だ。
バレリーナの足で特徴的な部分は、やはり「足の甲」だろう。足の甲といっても、一般的な足の甲よりもやや足首に近い部分が、つま先立ちをした時に出ていることが、美しい足として評価されるらしい。
さらに「膝」が小さいこと、つまりボッコリと存在感のある膝はNGのようだ。その結果、足のつけ根から真っすぐ膝へと向かい、そこからやや反るような水平さを保ちながら足首へ到達し、美しく突出した足の甲からつま先へとすべり台が形成される足こそが、バレリーナとして持って生まれた才能なのだ。
(わたしの指が、バレリーナの才能に満ちあふれている・・・)
再び己の指を観察すると、中指と薬指など第二関節がやや凹んでおり、第一関節へ向けて反りかえっている。そして第一関節のタコの高さを使い、一気に指先へと下っているのを確認。
これぞ正に、理想的なバレリーナの足だ!
テーブルの上に中指を立てると、ちょっと小太りな、いや立派なおみ足のバレリーナがそこにいる。膝に負担がくるのではないかと心配しそうなほどの「逆しなり」を見せる、一流プリマの足そのものだ。
そしてこの指で稚拙なピアノを弾けば、それこそ「バレリーナとピアニスト」のような状況が成立するではないか。
バレエは踊らなければ、上手いか下手かは分からない。ピアノも弾かなければ、上手いか下手かは分からない。とりあえずわたしには、バレリーナとピアニストになれるやもしれぬ素質が、あるわけだ。
サムネイル by 希鳳
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