まさかこんな偶然が起こるのだろうか・・と、しばし呆然とする出来事に見舞われた。それは、ウォシュレットの水を飲むという、まさかの事件だった。
言うまでもなく、ウォシュレットの水を飲もうとしたわけではない。さらに、役所や図書館で見かけるウォータークーラー(冷水器)のように、天に向かって噴水する水を口でキャッチしようとしたわけでもない。本当にただただ偶然、口の中にウォシュレットの水が飛び込んできたのである。
ちなみに、ウォシュレットの水を口に含んだ感想は、
「・・・生温かい水」
の一言に尽きる。むしろ、異臭や異変といった”不味い要素”がないどころか、状況が違えば「美味い」と感じたかもしれないほど、なんというか清々しい気分になった。
まぁ、便器の内側から噴出したとはいえ、使用している水は上水道なのだから、飲み水であることに間違いはないのだが——。
では、なぜこのような意味不明な事態に遭遇したのかというと、どうやらわたしが「ウォシュレットのボタンを押し間違えたから」だと思われる。要するに、ウォシュレットを「止める」ボタンを押したつもりが、「おしり洗浄ボタン」を押してしまったのだ。
しかも運悪く、おしり洗浄で設定されたノズルの角度と水勢が絶妙で、わたしの両股の間をすり抜けて正面の壁に衝突。さらに勢い余って、その水が跳ね返ってきたところにわたしの顔面というか口があり、ちょうどたまたま口を開けていた・・という、いくつかの偶然が重なった結果、ウォシュレットに背を向けたままウォシュレットの水を飲むという、奇跡のコラボが実現したのだ。
しかしながら、ウォシュレットの水はごく普通の飲み水だった。これはむしろ残念というか自慢のしがいがない結果ではあるが、本当に単なる生温かい水・・いや、お湯でしかなかった。
さすがに、ノズル洗浄やら除菌機能が搭載されているとはいえ、便器の内側から現れた水を「美味い」とは思えないのが一般的。きっと、どこかかカビ臭くて苦いような古いような、吐き気を催す味であるに違いない——と、ネガティブなイメージを抱いていたわけだが、そんな悪しき水が口内に飛び込んできた瞬間、不快感どころか水本来のポテンシャルたる、ある種の”まろやかさ”を感じたわたし。
(これは、普通に飲み水だ・・)
それゆえに、驚きと同時に味の感想までもが脳裏をよぎったのである。
繰り返しになるが、ウォシュレットの水は上水道を引き込んでいるため、当たり前だが飲み水と同じ。そんな衛生的に処理された水だからこそ、デリケートゾーンの洗浄に使われており、誤って飲んだところで有害とはならない。
とはいえ、水が衛生的でもノズルや壁も清潔であるとは限らない。さすがに「ウォシュレットのノズルに、汚れは一切付着していない」とは考えにくいし、正面の壁に衝突して跳ね返ってきた水なので、壁自体の清潔度がいかほどのものなのかも気になる。
だが、いわば一瞬の出来事であり、もしかするとノズルにも壁にも接することなく、ダイレクトにわたしの口へ飛び込んできた可能性も大いにある——。
このように、いくつかの問題点はあるにせよ、総合的に鑑みると「ウォシュレットの水を飲んでも問題はない」と断言できるだろう。
噴出地点の場所が場所だけでに、心理的な影響を無視できない点は否めないが、目を閉じて純粋に水の味だけを評価すると、紛れもなく「まずくない・・いや、うまい」と言えたことが何よりの証拠。
加えて、人間には防衛本能が備わっているため、毒や汚水を飲んだならばそれなりの異変が体に生じるはず。ところが、異変ではなく「イケる」という感想が自ずと湧き上がってきたわけで、便器の中に設置されたウォシュレット・・という環境や機能に左右されることなく、口に含んだ水のみを正当に評価したものこそが「正しい結論」となるのだ。
——このくらい、突飛な理論武装でもしておかなければ、やってられない気分のわたしなのであった。
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