どうでもいい話と、どうもいい話。

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飲みかけのコーヒーを置きっぱなしにして出かけたわたしは、帰宅すると冷たくなったマグカップを手に取った。

だが今は、中途半端に冷たくなった元・ホットコーヒーになど興味はない。どちらかというと、冷たいほうじ茶か麦茶をゴクゴク飲み干したい気分である。

 

そこでわたしは冷蔵庫を開けると、一リットルの牛乳と同じ形のほうじ茶を取り出した。ローソンのPB商品なので、150円くらいでお得だったのだ。

 

しかし、飲みかけのコーヒーを先に片付けなければ、この黒い水はいずれ捨てられることになる。ということは、乾いた喉を潤すべくほうじ茶を流し込みたい衝動を抑えて、まずはテーブルに放置されたコーヒーの残骸を処理しなければならないのか――。

 

わたしはほうじ茶のパックを開けるとその香りを嗅いだ。あぁ、独特の芳ばしい匂いがする。

(今ここで、一気にゴクゴクできたらなぁ)

ダメだダメだ。まずは、この商品価値を失った泥水を飲み干さなければ。あぁ、いっそのことシンクにザバーッと流せたら…いやいや、痩せても枯れてもコーヒー愛好家のわたしが、愛おしい泥水…いや、コーヒーを粗末にするようなことはできない。

 

そこでわたしは紙パックに鼻を突っ込み、ほうじ茶の香りを思いっきり吸い込んだ。そして勢いそのまま、マグカップのコーヒーを口へと運んだ。

(・・・あれ?)

わたしは冷めたコーヒーを飲んだはずだが、なぜかほうじ茶の味がする。よく見ると、コーヒーの黒色が少し薄い気もする。さらによくよく考えると、マグカップへ少しだけほうじ茶を入れたような気がしなくもない。ということは、出かける前にコーヒーをすべて飲み干したのだろうか。

(いや、そんなはずはない)

ピシャリと否定した。間違ってもそんなことはない。なぜなら家を出る時に「あぁ、帰宅したらこのコーヒーを飲まなきゃならないんだな」と、残念で憂鬱な気持ちになったことを覚えているからだ。

――ではなぜ、ほうじ茶の味がしたのだろうか。

 

そもそも、コーヒーは焙煎した豆の汁でできている。そしてほうじ茶も、茶葉を焙煎した汁でできている。自然で育った豆と葉の違いはあれど、同じように焙煎した飲み物であることに変わりはない。

だからこそ、なんとなく似たような風味を感じるのかもしれない。さらに、コーヒーもほうじ茶も冷えた状態のため、アロマが引き立たない。

そしてわたしは、ほうじ茶の香りを大きく吸い込んでからコーヒーを口に含んだので、香りはほうじ茶そのもの。おまけに、脳内も意識もほうじ茶に支配されており、味覚すらもほうじ茶に引っ張られてしまったのだ。

(――なるほどね)

勝手に自己完結したわたしは、残りのコーヒーを飲み干すとともに、ほうじ茶一リットルもきれいに平らげた。

結局、どちらから飲んでも同じだったのかもしれない。

 

・・・ここまで長々と、冷めたコーヒーのどうでもいい話をしてしまったが、本題はこれじゃない。じつは今日、とある組織の点呼(?)に参加したのだが、そこでボスがこう発言したのだ。

「今日からマスク着用は無しにします」

そもそもわたしなどとっくの昔にマスクとはおさらばしていたが、業種や職種さらには立場上マスクを着けていないと、なんとなく気まずい人もいるだろう。

 

無論、彼ら彼女らは自己判断でマスクを着用していたわけだが、コミュニティー内ではそこでの長に従う必要がある。これはマスクに限った話ではなく、服装やマナーなど、コミュニティーでのルールが守れなければ、そこにいられなくなるのは当然のこと。

さらに今日からは、政府の方針としても「マスク不要」を明言したわけで、なんの気兼ねもなく脱マスクの初日を迎えたわけだ。

 

とりあえずわたしは、ボスのこの発言を聞いて思った。

民主主義という、平等を装って国力を衰えさせる方法で「誰一人取り残さない」代わりに、様々な能力やレベルの低下、さらには貧困までをも受け入れる余裕のある、将来絶望的な国・日本だが、正しい判断のできる指揮官が進路を示せば、わりといい方向に行くんじゃないか‥と。

 

誰かが嫌われ役を買って出なければ、物事が進まない局面もある。あるいは、たとえ後がない戦いだったとしても、士気を鼓舞しなければならない場合もある。そんなとき、組織の長が率先して大役を担ってくれれば、下の人間に光が差すだろう。

もっというと、それができるトップというのは、下の人間から愛され信頼されていなければならない。お飾りの役職では、ヒトは動かないからだ。

 

こうして、マスクを外した素顔を見回してみると、なんというかいいオトコが多いじゃないか。こう見えてもわたしのストライクゾーンは広い。さぁオトコどもよ、躊躇せず、この胸へ飛び込んでこい!

 

Illustrated by 希鳳

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