週末のワルキューレ

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基本的に、わたしの友人は全員オトナである。相手もわたしを「友達」だと思ってくれている最年少でも、20歳は超えている。よって、若いとはいえオトナだ。

だが今回驚いたのは、オトナの中のオトナである30代から40代、または50代の友人らが全員、何らかの漫画やアニメを見ていたことだった。

＊

膝を負傷して6週間が経過するが、振り返ってみるとこの一か月ちょっとの期間、わたしはアニメと共に過ごしてきた。寝ても覚めても…という表現が相応しいくらいに連日連夜、あらゆるジャンルのアニメを漁ってきた。

有名どころは早い段階で網羅したため、後半はマニアックなものにまで手を出すハメとなっり、今ではどんなアニメ作品でも「聞いたことある」と断言できるレベルに達したわけだ。

いうなれば、運動機能を失った代わりにアニメ知識を得た、といったところか。

そんな話はさておき、働き盛りのミドルエイジが漫画やアニメに興味があるとは思えないので、ちょっと自慢でもしてやろうかと、わたしは彼らに「おすすめのアニメ」を聞いてみた。

（フフフ、どうせ「アニメはあまり見ないんで…」とか、情けない返事をするんだろうなぁ）

この手の性格の悪さは、今に始まったものではない。

少しでもマウントが取れるならば、さっさとかっさらっておくべきだ。カネがあるわけでも誇れるような能力があるわけでもない、小粒な一般市民であるからこそ、他人を蹴落とせるのならばそこに全力を注ぐのが常識である。

さぁ、困り果てた顔でその場へひれ伏せ！！！

「んー、終末のワルキューレとかは？」

ハッ！その名前は聞いたことがある。ワルキューレといえば、マクロスデルタに登場する5人組の戦術音楽ユニットだ。アレ系の、恋愛まがいの宇宙空間戦闘モノか？

残念ながら今のわたしにとって、ソレ系は満腹である。もっと目新しい展開の作品を希望したいのだが――。

「なんか、バキ的な要素で神と人間との戦いの話」

バキとは、（ほぼ）人類最強といえる主人公・範馬刃牙（はんまばき）の、成長と死闘を描いた作品である。なかなかありえない戦いの連続で目が離せないのだが、そのバキ的な戦いの相手が「神対人間」というのだから、ぶっ飛んでいて面白そうじゃないか。

よし、今夜は終末のワルキューレにしてみよう――。

「アニメですか？リコリス・リコイルなんかはどうですか？」

ニコニコしながら別の友人が割り込んできた。なんて言った？リ、リコリ？？

「異世界モノじゃないけど、戦いもあるし面白いと思いますよ」

・・アニメというのは、どうでもいいからこそ「食わず嫌い」をしてはならない。浅く広くさらっておくことが、基本であり原則といえる。恋愛系、青春学園系、異世界転生系、戦国武将系などなど、どれもまったく興味はないが、だからこそざっと見ておくべきなのだ。

よし、まずはリコなんとかから唾をつけるとしよう――。

帰宅途中にスマホで「アニメ　リコ」と検索すると、すぐさま予測変換で「リコリス・リコイル」が出てきた。うむ、かなり有名なアニメの模様。そして早速、興味をそそられないリコリス・リコイルを見始めたのだった。

――翌日、最終話まで見終えてスッキリしたわたしがいた。

やはり、自発的に見ることのない作品というのは、他人からの推奨によって出会えることが魅力といえる。

今回のリコリス・リコイルに関しては、アニメーションやストーリーよりも主人公の声優がよかった。初めて聞く声だったが、アドリブに近い会話や話し方がとても心地よくて、思わず一気見してしまったのだ。

このように、アニメの楽しみ方というのは色々あるわけで、さほど期待をしていない分、評価が高くなることもあるから面白い。

＊

「終末のワルキューレとかは？」

リコリス・リコイルの次に「魔法使いの嫁」をすすめられたわたしは、ついうっかり終末のワルキューレの存在を失念していた。

だが、今日会った友人の口からこの作品が再び飛び出したことにより、魔法使いの嫁を中断して終末のワルキューレに切り替えることに決めた。

それにしてもこの友人は、超多忙なはずなのによくぞアニメを見る時間があるもんだ。

「あー、夜勤の時とかね」

なるほど、夜勤か――。介護事業所での夜勤は、仮眠をとりながら定期的に見回りをしたり、コールが鳴ったら利用者の元へ向かったりと、勤務時間中ずっと仕事をしているわけではない。だが熟睡することもできないため、映画やアニメを見ることで睡魔を追い払い、利用者の安全を守るのだ。

しかしながら、数日前に終末のワルキューレを紹介してくれた友人も、リコリス・リコイルを紹介してくれた友人も、そして魔法使いの嫁を紹介してくれた友人も、全員、真面目な勤め人である。それなのになぜ、みんなこれほどまでにアニメを知っているのだろうか。

これが自営業とかフリーランスならば、まだ理解できる。自分の都合で仕事を調整できるならば、適当な一日を丸々休みにすることも可能なわけで、アニメの時間があっても不思議ではないからだ。

ところが、会社に雇用される彼ら彼女らが家庭や趣味の時間とは別に、しっかりとアニメの時間を確保しているのは不思議でしかたない。さらに、誰もが知っているような有名アニメではなく、動画配信サイトでなければ視聴できないレベルのアニメを読了（鑑了）しているのだから、時間軸がおかしいとしか思えないわけだ。

その上、アニメ好きとは思えないタイプに尋ねたにもかかわらず、きっちりと変化球を打ち返してくるのも驚きでしかない。

あぁ、今さらながら人間というのは、見た目によらないものなのだ。

＊

こうしてわたしは、ネットフリックスで終末のワルキューレを流しながら、いま、キーボードを叩いているのである。

Illustrated by 希鳳

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