私は、電子レンジでいけるのではないかと踏んでいた。
「フライパンは使わなくてもいい」と言ってもらえると信じていた。
ゆえに、失敗するなどとは夢にも思わなかった。
*
スーパーの精肉コーナーで、「自家製手造り生ハンバーグ」なるものが売られていた。呆れるほどのウーバーイーツ利用率を反省し、たまには自炊してみようと手を伸ばす。
ーーしかしハンバーグ2個で350円とは、日ごろから食べているハンバーグはいったい何でできているんだ。
ハンバーグにプラスして白米をカゴに入れ、レジへと向かう。合計は505円。これをどこかのレストランで食べようものなら、プラス1,000円は払わされるだろうに。驚くべき自炊の安さよ。
帰宅するや否や、友人にハンバーグの画像を送る。
「どうやればいい?レンジ?フライパン?」
空腹の私は「こう言ってもらいたい」方法を先に伝えた。つまり、レンジでチンすればいいよ、と言ってもらいたいのだ。
「フライパンで焼こう」
・・・チッ
我が家には、食用油が存在しない。キッチンをガサゴソするとオリーブオイルを発見する。だが賞味期限が1年ちょっと過ぎており、なんとなくやめた方がいいだろう。
友人に「油がないのでダイレクトにフライパンへ乗せる」と告げると、
「ほんとは油をつかいたいけど、そのまま焼くしかないね」
渋々、了承を得る。
我が家には、肉をフライパンへ乗せる器具がトングしか存在しない。やむを得ずトングでそっとハンバーグをつまみ、フライパンへと移動させる。
ジューーーー
思わず想像する。これがもし自分ならば相当熱いのではなかろうか。油も引かずにダイレクトに鉄板へ放り込まれたら、それはもうとんでもないことに。
その時ふと気が付いた、火力ってどうするんだろう?友人に尋ねる。
「中火で焼き目をつけて肉汁を閉じ込めて、フタをして火を弱めて蒸し焼きにするの」
素朴な疑問が浮かぶ。
(なぜ肉汁を閉じ込めなければならないんだ?)
ネットで検索すると、肉汁はアミノ酸や脂肪などの「うま味成分」と呼ばれるものらしい。ハンバーグにナイフを入れるとジュワッっとあふれ出す、アレだ。さらに余計なことを思い出す。
過去に顧問先のフレンチの社長が言っていた。
「食品偽装とか言うけど、ジュワッとあふれ出る肉汁を求めてるのは、お客さんのほうだからね」
某レストランがハンバーグに後から肉汁を仕込んでいた、と報道されたときの話だ。そのことについて「食品偽装」とマスコミが叩いたが、飲食店経営者サイドからすると、肉の脂を注入したことだけをもって「偽装」と言われるのは心外だ、という反論。
そもそも「肉汁があふれ出るから美味い」は、単に視覚に訴えかけたプロモーション。肉汁が出ないからまずいわけでもなく、調理方法の違いなだけ。
それをメディアのプロモーション戦略にはまり、「ジュワッとあふれ出す肉汁こそが美味さの象徴」と思い込んだ顧客が、肉汁の出ないハンバーグにクレームをつける始末。
フレンチの社長は、
「本当のうま味も知らずに、肉汁が出ればいいと刷り込んだのはマスコミの責任」
と冷たく突き放した。
まぁ、いまの私にはどうでもいいことだ。肉汁以前に、目の前にあるハンバーグはまだ赤色でほぼ生肉なわけで。
ところでフライパンに接する面の肉は、先ほどから確実に熱せられている。
「これ、いつひっくり返すの?」
焼かれているハンバーグの画像と共に、友人へ質問する。
「焦げ目がついてきたらひっくり返して」
(焦げ目がついてるかどうかなんて、どうしたらわかるんだろう・・)
ハッとした私は、慌ててトングでハンバーグをつまみ上げる。すると、やはり!というか、なんと!というか、真っ黒。
「焦がすな!!!!火が強い!!!!」
比較的温厚な友人が激怒。その後は頻繁に「焦がしてない?」と確認してくる。
表面が黒焦げのハンバーグを見つめながら、ふと、中身はどうなっているのか気になった。トングで割り開けてみる。
ーー真っ赤だ
この分厚いハンバーグ、最初の火力が強すぎたせいで表面が焦げ、中まで火が通っていない。そんな状況を伝えると、
「なんで割るのよ!!!」
またもやキレられる。たしかにトングで割ったときに大量の肉汁、もとい、うま味成分があふれ出た。それがもったいないのだと友人はキレる。
だが私は、この肉の塊が食べられればいいだけなので、うま味成分などはあまり気にしない。
それより何より中が生ではいただけない。割った断面をフライパンに当て、さらに加熱。
黒く焦げた楕円形の肉の塊が四つ、フライパンにそびえ立つ。
(まるで欧米の墓石みたいだ)
ーーそして数分後。
「できた!」
皿に移したハンバーグ、いや、黒焦げの肉の断片画像を送る。
「これはなんだ!!!」
どうやら料理上手な主婦のお眼鏡にはかなわなかったらしい。そして、私にはやはりウーバーイーツが必要なのだということが分かった。
ヤバい、漫画みたいに見事な失敗ですね(笑)
なんでも出来るりかさんものニガテを発見しました!
アタシの方がビックリだよ!こんなことってあるの?!
失敗の域を超えてるよね・・・