本日のオフィス・・もといスタバとして、中目黒にある山手通り店を選んだわたし。「中目黒」というだけで急にオシャレな感じがするとあり、この地名の破壊力は抜群だ。しかも、ただ単にオシャレというだけでなく"上品さ"も付随するからなおのこと。
「今どこにいる?」
「ん?中目黒だよ」
これだけで、問答無用に羨ましがられるわけで、今こそわたしに居場所を聞いてもらいたいのである。
店内は当然のことながら満席に近く、顧客らは皆オシャレでキラキラしている。年齢層も若者から年配までまんべんなく存在しており、それでも全員が素敵な身なりでスタバを楽しんでいるのだ。
(ヤクの靴下に穴の開いた夏のサンダルは、わたしだけか・・・)
まぁそんなことは気にせず、一つだけ空いたソファを素早く陣取ると、パソコンを開き戦闘態勢にはいった。
この店舗は電源が設置してあるが、個数に限りがあるため思うようには充電できない。
電源のある席は、背の高いテーブル席の真ん中×6ヵ所と、壁際にある一ヵ所だけ。ベストは"壁に向かって座るあの席"だが、やはり誰もがそこを狙っているため、しばらく様子をうかがうも空く気配はない。
そして、このスタバを利用する者は電源の場所を把握している猛者ばかりであり、背の高いテーブル席も入れ替わり立ち替わりで埋まっていく。
(こりゃ、あまりスマホは使えないな・・・)
バスタブにスマホを落として以来、どうも充電の減りが激しくなってしまったため、うかつに音楽など聴いていると、あっという間にわたしのスマホは死んでしまうのだ。
そのため、長居する場合は確実に電源を確保できるカフェを選ぶことにしているが、電源のあるカフェだからといってその席に座れなければ意味がない。
そんなこんなで、仕事をしつつも意識は常に電源付近の席へと向けていたところ、わたしの前で一人の貴婦人が立ち止まった。顔を上げると、彼女は腰をかがめながらテーブルの下をのぞき込んでいる。
(コンセントの確認をしているんだな)
そしていくつかのテーブルの下を確認した後、電源のある席がどこも空いていない現実に、呆然と立ち尽くしてしまったのだ。そんな彼女が哀れに思えたわたしは、
「コンセント探してるの?」
と声をかけてみた。すると彼女は「うん」と頷いた。
かくいうわたしもコンセント難民ではあるが、悲壮感からいうと彼女のほうが上回っている。こういう時に、「なんとかしてあげたい」「支えてあげたい」と思える雰囲気や表情ができる女性は得である。
そこでわたしは、あの壁側の二席にも電源がある・・ということを教えてあげた。しかし今もそこには客が座っており、結果として充電できる場所はないのだが。
すると彼女は、
「あの、この真ん中の席って座ってもいいんでしょうか?」
と、店員でもなければなんの権限もないわたしに尋ねてきたので、
「もちろん座っていいけど、他人に挟まれてるから居心地悪いかもよ」
と、アドバイス付きで答えてあげた。
背の高いテーブル席は両サイドに三名が座れるため、必然的に、角に位置する四席が埋まりがちとなる。カップルが隣同士で座ればその問題も解決できるが、およそ一人で来店した客か、あるいは三名以上のグループ客がその席を確保しているため、電源のある真ん中席が空いたとしても座りずらいのである。
そして彼女は、三名の外国人観光客の陣地に一つだけ空いた席を指さし、そこへ椅子をねじ込むことで席を確保してもいいかどうかを、わたしに尋ねたのだ。
本来ならばそこにも席はあるはずだが、大勢の客でごった返す店内では、椅子を勝手に動かして自分たちの空間を作る外国人らにより、椅子が行方不明となっていた。
それでもコンセントを求める彼女の意思は固く、椅子をかっぱらってでもそこへ座りたい・・という、覚悟というか執念を感じた
わたしだって、彼女よりも先に電源の席が空くのを待っていたわけだが、それでも、椅子を動かしてまで見知らぬ観光客の真ん中に座る勇気は持てなかった。——完敗だ。
こうして彼女は、どこからか引きずってきた椅子をテーブルの真ん中に置くと、ドリンクを注文しにレジへと向かった。
・・とその時、わたしはいいことを思いついた。即座にコンセントが二つあることを確認すると、彼女が戻ってくるや否やこう交渉した。
「電源一つ、使わせてもらってもいい?」
返事はもちろん「どうぞ」だった。
彼女の席は、いわばわたしの目の前であり、わざわざ座席を確保しなくとも充電できるのならば、この上ないラッキーである。さらに、スマホでできることはパソコンでもできるとあり、多少離れていてもなんら問題はない。
おまけに、今わたしが座っている席はソファシートのため、こちらのほうが居心地がいいのである。
電源を確保するために座り心地のわるい席で我慢するか、長居するのだからクッション性のある席で充電できずに過ごすか・・そんな二択しかなかったわたしに、神は両方を与えてくれたのだ。
(ツイてる、今日のわたしはツイてる!!!)
こうして、スターバックスで仕事をするだけの一日を過ごしたのであった。
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