私が社労士を辞めるとしたら、年度更新の手計算を強いられた時だろう。

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(こんなものを手作業でやったら、いったいどれだけの重篤なストレスと時間的負担を強いられるんだろうか・・・)

この時期になると毎回感じることだが、労働者を雇用する事業主が毎年6月1日から7月10日にかけて行わなければならない、「労働保険の年度更新」という名の手続きがあり、その作業工程が手作業だとしたらわたしは確実に社労士を辞めているだろう、というくらいに膨大な数字を扱う、恐ろしいルーティンワークが存在する。

 

労働者にとっては馴染みがない手続きだろうが、事業主にとっては年に一度の一大行事といえる、労働保険の年度更新。これは、昨年度一年間に労働者へ支給した賃金総額へ、業種ごとに定められた保険料率を乗じることで算出された労働保険料(労災保険料と雇用保険料)を、申告&納付する手続きのことである。

さらに、昨年度に支給した賃金から算出された保険料=確定保険料と、同額の保険料を今年度分として先納めするため、イメージとしては二年分の保険料を納付することとなる。

 

実際には、昨年度の保険料はその前年度に概算保険料として納付しているため、当時納付した金額と相殺されて過不足を納付するだけなので、概算保険料が大幅にズレていなければ二年分の保険料納付とはならない。

だが、昨年度に労働者をたくさん雇用したとか、給与が増額したなどの事情があると、今年度の納付額は必然的に高額となってしまうのである。

 

「なんかごめんね。昨年の年度更新で概算保険料がものすごく少なく見積もられていたせいで、今年の納付額がとんでもないことになってるんだけど・・・」

 

このセリフを吐く場面では決まって、昨年度の申告をした「人物」が問題となる。少なくとも社労士ならば(厳密には「まともな社労士」ならば)、たとえその時点での労働者数が少なかったとしても、この先の事業計画によっては概算保険料を多めに見積もるものである。

ほとんどの場合が昨年度と同額という前提で申告するのだが、事業主とのやり取りの中で「店舗展開」や「事業拡大」などの話が出れば、そこを考慮して申告するのが親切といえる。

 

とある顧問先では、昨年度の納付額が5万円だったのに対して、今年度の確定保険料+概算保険料の合計が45万円を超えてしまったのだ。通常ならば20万円程度の納付で済んだところを、昨年度のツケを払う形で高額の保険料を納付しなければならない…という事態に陥ってしまったのである。

(こういう場合って、だいたい税理士がやってるんだよな・・・)

真相の追求はしないが、おおよそ顧問税理士が申告書を記入するパターンが多い。そして恐ろしいことに、交通費を除いて計算していたりするから見過ごせないのだ。

 

所得税の計算をする際に、月額15万円以下の交通費は非課税とされる。だが、労働保険(労災保険・雇用保険)や社会保険(健康保険・厚生年金保険)の計算をする際には、出勤にかかる交通費は「賃金」として含まなければならない。

ところが、税務の専門家である税理士は税法上の考えで計算をするため、交通費を除いた金額で労働保険料や社会保険料の計算をする人がいる。もちろん、そんな税理士ばかりではないので悪しからず。しかし、

「我が社は労務コンプライアンスも完璧であり、社労士など不要だ!」

と主張する事業主にとって、年度更新だけのために社労士に依頼をするのは面倒だと考えた結果、顧問税理士に代筆(?)してもらうケースも無きにしも非ずなのだ。

 

まぁそれはそれでいいとして、わたしが関与する企業については、限りなく負担を抑える形で申告したいので、今後の事業展開をそれとなく探った上で、それ相応の概算保険料を見積もって申告したいと思うのである。

そして今日、手元に届いた申告書の計算をすべて終えることができた。

・・などと自慢げに言いたいところだが、これらはすべて、社労士専用の人事労務管理ソフトが勝手に計算をしてくれただけのことである。

 

社労士になってから、わたしは株式会社セルズからリリースされている「台帳」とともに、今日まで歩いて来た。人間など微塵も信用しないわたしだが、セルズの台帳だけは頼りにしている。そのくらい、社労士という仕事をする上で、そのほとんどをまかなってくれるのが「台帳」なのである。

とくに今年は、昨年度の雇用保険料率が年度途中で変更していることから、前期分と後期分とでそれぞれ計算しなければならないという、とてつもなく面倒なことになっているのだ。

 

ちなみに、今年度の雇用保険料率はさらに増加しており、納付する保険料も高額となることを覚悟してもらいたい。なぜか?・・コロナ禍にばら撒かれた「雇用調整助成金」のツケが回って来たからだ。

 

 

ということで、毎年この時期になると、わたしはセルズの台帳に感謝せずにはいられないのである。社労士という仕事を続けられるのは、台帳のおかげでしかないからだ。

さぁ、年度更新未申告の事業主の皆さん、7月10日が申告期限ということでまだ余裕はあるものの、面倒なことはなるべく先に済ませよう。

「物事を先延ばしすることは、実行するよりもはるかに多くの時間とエネルギーを要する」By エメットの法則

 

Illustrated by 希鳳

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