池袋トイレ危機

 

池袋の駅ビル内にあるトイレが、「インド式」になっていた——。

 

*

 

尿意をもよおしたわたしは、電車に乗る前にトイレへ寄ろうと、改札前で踵を返すと目の前にある駅ビルへと入って行った。

おそらく改札内にもトイレはあるだろうが、普段利用しないこともあり場所の見当がつかないため、確実にトイレへたどり着ける「駅ビル」を選んだというわけだ。

 

エスカレーターを昇り女性用トイレの表示がある階までやってきたわたしは、一目散に目的地へと向かった。

ちなみに、そのフロアにはHMV(音楽・映像ソフト販売店)が入っており、多くの若者でにぎわっていた。そのため、「もしかするとトイレも混んでいるかも・・」と懸念したが、トイレ内の個室は二つとも空いていたのでホッと胸をなでおろしたのである。

 

そして、いそいそと左側の個室へ駆け込んだわたしは、すかさずドアを閉めパパっとズボンを下ろして便座へと座った。その瞬間——なんと、トイレットペーパーが切れていることに気がついた。

「え?!」と焦りながらも予備ホルダーに手を突っ込んでみたところ、なんら触れる物はない。慌てて後ろを振り向くも、予備のトイレットペーパーは置かれていない。

しまった、こっちの個室はトイレットペーパーがなかったのか!!

 

寸でのところで尿を膀胱へと押し戻すと、改めて着衣を戻して隣のトイレへと移ったのだが、まさかのこちらにもトイレットペーパーは存在しなかった。要するに、トイレは二つとも空いているが両方ともトイレットペーパーがない・・という状況なのだ。

ちなみにその原因は、外国人観光客によるトイレットペーパー盗難事件だった。

 

個室の壁には「トイレットペーパーの盗難が多発しています。持ち帰るのはやめてください」との張り紙がされている。

よってこれは、予備も含めてトイレットペーパーが盗まれたことによる「トイレットペーパー不在」の状況なのかもしれないし、あまりに盗難が多いため「トイレットペーパーは設置しない」とビル側が判断したのかもしれない。いずれにせよ、自らティッシュを持参しなければ利用できない状況となっていたのだ。

 

だがその時、わたしはふと思い出した。「あの国のヒトならば・・インドの人々ならば、この状況でもなんら不自由なくトイレを使うことができるだろう」と。

 

かつてインドを訪れた際、ヒトが住めるほどの広い空間に一か所だけ四角い穴が開いた部屋へと案内されたわたしは、その清々しいほど何もない光景に圧倒された。なぜなら、「トイレはどこですか?」と尋ねた答えがここなのだから、驚きよりも呆気にとられるしかなかったのだ。

そしてその空間には、四角い穴の近くに水道の蛇口と古びた柄杓が置かれてあり、要するに「四角い穴に用を足したら、蛇口から水を出して柄杓に溜めて、その水で臀部やデリケートゾーンを洗え」ということなのだ。

 

なお、トイレを案内してくれた女性店員に「トイレットペーパーを使わずに、どうやって水分を拭き取るのか」と尋ねたところ、

「あなたはパンツを履いているでしょ?パンツの布が水分を吸収してくれるじゃない」

と、「なんでそんな当たり前のことを聞くんだ」と言わんばかりの表情で諭されてしまった。考え方としては、水道水で洗った臀部はすなわち”シャワー後と同じ状態”であり、臀部に付着した清潔な水をパンツの布で吸水するのは、バスタオルで体の水分を拭き取るのと同じ——という感覚なのだろう。

 

とはいえ、トイレットペーパーという文化・習慣に慣れ親しんでいる我々にとって、パンツで水分を吸収するという行為はいささかハードルが高い。

しかしながら、我ら日本が誇る首都・東京を代表する池袋駅ビル内にあるこのトイレには、ウォシュレットという優れた洗浄機能が付いているではないか。あとは、パンツが持つ意味というか役割についての解釈を、インド式に受け止めることができれば・・・。

 

*

 

外出時にトイレを使う際は、予めトイレットペーパーの有無を確認することをお忘れなく。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です