昆虫界最弱のガガンボが、怖い

 

「ガガンボ」という虫をご存知だろうか。

おそらく、多くの者が目にしているはずではあるが、「あの虫の名前が分からない」という可能性はなきにしもあらず。

ちなみに、文字で表現すると「手足が異様に長い、バカでかい蚊」という感じで、農地や森林の多い地方へ行くと、フラフラ(フワフワ)と不安定かつ奇妙な飛行をしていたり、白い壁に貼りつく姿が巨大な蜘蛛と見間違えられたりと、我々ヒトにとって恐怖と嫌悪感を与える存在である。

 

ところがこのガガンボ、見た目の不気味さに反して人畜無害な昆虫なのだ。

そもそも、蚊と違って吸血するための針や毒は持っておらず、当然ながら血も吸わない。しかも、成虫になってからは口が退化するらしく、食事をとらない傾向にある。そのため、何も食べずに寿命を迎える者もいるのだそう。

それでも、何かを口にするとすれば「花の蜜」や「水」といった液体なので、ここだけを切り取れば、まるで蝶を連想させる可愛らしい昆虫に思える。

 

加えて、蝉同様に一生の大半を土の中で暮らし、成虫になって地上へ出てからの命はわずか10日から15日、場合によっては数日で天に召される者も——。

極めつけは、「ガガンボの手足は簡単にもげる」ということ。ヒトに叩かれればあっという間にバラバラになるが、そうでなくても・・たとえば誤って壁にぶつかっただけでも、手足がもげてバラバラになってしまうほど、とても脆弱な生き物なのである。

 

(ヒトに害を加えることなくただひっそりと10日間を満喫したいだけなのに、壁に貼りつけばその不気味なフォルム故にすぐさま叩き落とされるし、ちょっとした衝撃で手足がもげるため、またの名を「昆虫界の最弱」などという不名誉な称号を与えられている。おまけに飛行能力が極端に低いため、フラフラと頼りなさげに浮遊することしかできないにもかかわらず、敵を攻撃する毒もなければ噛みつく顎も、血を吸う針もない。そんな、いわば「攻撃力ゼロ」の脆弱なガガンボは、いったい何のために存在しているのだろうか・・・)

 

テラスの壁に貼りついているガガンボを見つめながら、彼の儚い生涯について思いを巡らせるわたし。すると、それに気付いた家主が、丸めたタオルをガガンボめがけて投げつけた——あ、落ちた。

そう、ガガンボはノロノロと飛ぶことしかできないため、誰かにロックオンされたが最後、その後に残るのは「死」のみ。しかも、慌てて逃げた先に壁や障害物があれば、そこに激突した衝撃で手足がもげてしまったり、そのまま力尽きてしまったりするわけで、とにかくヒトの前に姿を現してはならないのだ。

 

(こうなると、蚊のほうが素早く飛ぶし人の血を吸うし、圧倒的に恐ろしい存在といえる。よって、昆虫界の底辺を支えるのはガガンボといっても過言ではないだろう)

 

*

 

とはいえ、どれだけ最弱かつ無害であるかを主張されたところで、ガガンボの見た目・・特に「異様に長い手足」を受け入れることはできない。なぜなら、わたしの天敵である蜘蛛にフォルムが似ているため、ガガンボを見た瞬間に全身に鳥肌が立つほどの恐怖と嫌悪感を覚え、内心パニックに陥るからである。

 

よって、ガガンボには申し訳ないが、互いのためにもわたしの近くには現れないでもらいたいのである。

 

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