舞台が東京ならば、それこそ押しも押されぬシティーボーイの男たちだが、ひとたび田舎へ足を踏み入れればただの役立たず。
「これだから都会モンは・・」と、苦笑いで嫌味を言われるのも致し方ないと、改めて実感するのであった。
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”東京最恐”といえば足立区。その足立区を代表する男といえば、イシイ(仮名)である。そんな、生まれも育ちも足立区という根っからのシティーボーイが、那須の田舎にある射撃場を訪れた。
ちなみに、同じ「那須」がつく土地でも、那須塩原市は標高が低いのでいわば普通の街といえる。だが、那須郡那須町は市ではなく郡であることからも、明らかに緑豊かな田舎・・いや、山間部または高原地帯であり、天候も変わりやすく寒さもグッと強まる場所なのだ。
そこへきて、昨晩から続く雨のせいで射撃場内の地面が緩んでおり、ぬかるみを避けて車を止めれば歩く距離が増えるので靴が汚れるし、アスファルトで作られた歩道ギリギリに駐車すれば、足は汚れないがタイヤが泥に埋まって動けなくなるし、どちらも手放しで選べるものではなかった。
というか、そもそも射撃場へ来るのに、オシャレな靴や服装で来るほうが間違っている。最低でもゴルフウェアにゴルフシューズくらいの汚れても問題ない格好が一般的。
しかしながら、格好に問題があったのはイシイではなく、このわたしだった。
よりによって裸足に下駄という足元スタイルだったため、何が何でもぬかるみを避けて駐車してほしかった。そこで、ぬかるみを嫌がるイシイに無理やり歩道ギリギリまで車を寄せるよう強要したところ——案の定、左前輪が泥にはまってスタックしたのである。
FF(前輪駆動)のヴェルファイアの前輪が、激しい音を立てて空転する。あぁ、これ以上地面を掘ると、射撃場の場長がキレる・・。
そんな未来を予知したわたしは、必死に泥からの脱出を試みる石井を制し車を降りた。
なお、ヴェルファイアに乗っていたのは、足立区のイシイと豊島区のイズミカワ(仮名)と、港区のウラベの三人。そう、押しも押されぬシティーボーイズ&ガールである。
これが都内ならば、23区カーストでわたしがデカいツラして威張れるところだが、ここは遠い異国の地・那須町。よって、われわれ三人は腕を組み、ただ呆然と作業を眺めるしかない未来を待つのであった。
しばらくして、場長によるヴェルファイア救出作業が始まると、それを見た他の射撃客らも集まって来た。彼らは全員地元民であり、一人は肉牛農家でもう一人は農家。つまり「ぬかるみのスペシャリスト」たちだった。
まずはタイヤの方向を整えて、ゆりかごのように少しずつ前後に振って平らな面を増やしてから脱出する・・という、場長お得意の方法で脱出を試みたが、バンパーがアスファルトの歩道に接触し、ガガガッと嫌な音を立てたことでイシイが悲鳴をあげたため、それ以上動かすことは止めにした。
(ちなみに、最近の車はバンパーに弾力があるため、外れても叩いて戻すことができる。とはいえ、自分の車のバンパーが削れる音を聞けば、だれでも悲鳴をあげるだろう)
第二の手段として、場長所有のランドクルーザーで引っ張り上げようとしたところ、ヴェルファイアを引っかけるためのフックがしまわれたフタが開かない・・という小さなピンチに陥った。
持ち主であるイシイは、そのフタの開け方を知らない——そもそも、泥にはまってスタックするなど、都内で暮らしていればあり得ないため、車体をけん引するフックの出番など一生訪れないわけで。
(最終的に、誰も見ていない隙を狙って場長がフタを力で押し開けたことは、わたし以外は不知の事実である)
さらに、フックを取り付ける際の工具がどこかにあるはず・・という場面でも、持ち主であるイシイにはまるで見当がつかなかった。
そりゃそうだ。ヴェルファイアのような重たい高級ワゴン車で、山奥かつ足場の悪い地面を走ることなど想定しておらず、まさか工具を必要とする場面に遭遇するなど思ってもいないわけで。
ところが、農家の男性が以前ヴェルファイアに乗っていたことから、「おそらくここだと思う」といって後部左側の壁をこじ開け、見事に工具を取り出したのである。
それから着々と準備が進み、いざ引っ張り上げる時を迎えた。牽引する側のランドクルーザーには場長が、そしてヴェルファイアにはイシイではなく牛農家の男性が乗車して、阿吽の呼吸とアクセルワークでじっくり少しずつヴェルファイアをぬかるみから救出した。
(元はと言えばわたしのせい・・それ故に、脱出できてよかった!!)
ちなみにこの間、シティーボーイズ&ガールは、腕を組んでジッとその様子を眺めていた。そんな我々を傍から見れば、
「都会から来たあの三人は、なんで偉そうにつっ立って見ているんだろうか」
と思われても仕方がないくらい、ただただその場に立ち尽くしていたのだ。
言うまでもないが、我々にできることや手伝えることは何もなく、せめて邪魔にならないよう脇で見守るくらいしか、やれることはなかったのである——。
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都内ではブイブイ言わせているイシイとイズミカワも、山間部においては単なる役立たずだった・・ということが証明された瞬間であった。










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