撫仏(なでぼとけ)・・?

 

筋トレをしているわけでもなければ筋肉を自慢したいわけでもないわたしは、願わくばシュッとした薄っぺらいフォルムに憧れているわけで、肉厚かつ凹凸(おうとつ)のあるボコボコしたボディなど、微塵も魅力を感じない。

だが、そんなわたしの筋肉質なボディが、まさかの役に立つ瞬間があった。なんというか、生まれて初めてこのカラダが役に立った・・と、心底感じる瞬間だった。

 

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ピアノ演奏会では、ステージ衣装とまではいかずともそれなりの服装でステージに上がるため、自ずと露出の高い格好になる。さらに、天井にはたくさんのライトが設置されており、演奏者のドレスやアクセサリーそして腕や背中を照らすことで、煌びやかな空間を演出している。

 

そんな”煌びやか演出”により、わたしの肩や腕そして背中の筋肉は、まさかの陰影を織りなすこととなる。

こちらはピアノを弾いているだけだが、それすなわち指や腕を動かすことであり、言い換えれば「ちょっとした運動」をしていることになる。よって、指や腕を動かすたびに、我が筋肉群たちが揺れたり隆起したりと、他の演奏者では見られない場違いな躍動感をみせることで、観客の目は釘付けとなるのだ。

 

そのため、演奏後の初感は「筋肉がすごかった」というのがお決まりのセリフ。

とはいえ、舞台で演奏するということは、耳で聞く音楽のみならず見た目も含めてパフォーマンスとなる故、ドレスやヘアメイクを褒めることもあれば、横顔の美しさを褒めることもある。

であれば、筋肉を褒められるというのもまた一興ではないか——。

 

ところが今回、演奏後に「意外なお客さま」がわたしの元へとやって来た。それは、出演者の一人である女性の母君だった。

「ほら、お母さんこの方が・・」

娘が一生懸命わたしの武勇伝を語っているのだが、高齢の母君にはあまりピンときていない様子——そりゃそうだ。ピアノの演奏会に訪れたというのに、柔術などという格闘技の話をされたところで、普通の人ならば「??」となるだろう。

 

そこでわたしは、言葉で説明するよりも手っ取り早く体感してもらおうと、母君の前で力こぶを出して触ってもらうことにした。

すると——先ほどまでは恥ずかしそうに会話をしていた母君が、まるで子供のようにキラキラした笑顔で驚いているではないか!!

「ええー、すごい!!うわぁ・・す、すごい!!」

 

現在は施設で過ごされているという母君。まぁ、施設に限らずこれほどの筋肉をむき出しにしている輩は少ないだろうから、驚くのも無理はない。そして、生の筋肉すなわち「漲る生命力の塊」に触れたことで、彼女にもエネルギーが漏れ伝わったように感じた。

なぜなら、あんなにも驚いた顔で目を丸くして喜ぶ姿は、誰がどう見ても若々しくて元気なおばあちゃんでしかない。とどのつまり、ヒトというのは驚きや興味といった好奇心から、自ずと活力を得られるのだ・・と、納得せざるを得ない現実を目の当たりにしたのである。

 

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百聞は一見に如かずというが、さらには「百見は一触に如かず」という事実を、彼女の母君から教えてもらった。

そして、わたしは自身の筋肉質なボディになんら自慢めいた感情を抱いてはいないが、それでも誰かが喜んでくれるのならば、このフィジカルも悪くはないな・・と思うのである。

 

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