病的な私

 

自分でもあきらかに愚かだと思うし、間違ったことをやり続けても正解に至ることなどない・・いや、あるかもしれないが非効率的であり無駄以外の何物でもないと分かっているのに、指先が赤く腫れてもなお、わたしはボルトを回し続けた。永遠に止まることのないボルトを、ただただ無意味に回し続けた。

こうなるともはや病気である。

強迫性障害の「強迫行為」やADHDの「過集中」「こだわりの強さ」がそれに当たる。まぁ、そう思いながらやり続けているのだから、自覚がある点で違うのかもしれないが、それでも”病的”であるのはその通りだし、そもそも間違っていると分かっていて改善しようとしないのだから、そこが問題。

 

そしてなんと、驚くことに3時間もその無意味な行為を繰り返したのだから、精神科を受診したほうがいいレベル。

 

いったいどのような状況だったのかというと、我が家におけるダニ事件を機に、家中のファブリック製品を排除し始めたわたしは、ついにソファを捨てる決断を下した。このソファはベッドにもなるので便利だが、かといって過去10年間で一度も、背もたれをフラットにして使ったことはないのだから、ベッドである必要性はゼロ——というわけで、新たに2.5人掛けのソファを購入したのである。

すると、新たなソファは「左右に分かれた座面をつなぎ、固定させるかたちで完成させる商品」だった。

とはいえ大した作業ではない。ソファ同士をジョイントさせた後にひっくり返して、左右両方にまたがるように連結用のプレートを当て、プレートの両端をそれぞれワッシャーをかかませたボルトで固定する・・というだけのこと。もちろん、ボルトをとめるための六角レンチも附属されており、工具がなくても組み立てられる仕様となっている。

 

その「プレートを固定するためのボルトを締める」際に、ソファ表面を覆う厚地の布のせいで真っ平にはならない接地面に対して、真っ平な金属製プレートの上から、ギリギリの長さのボルトをはめこむ・・というのが、なかなかどうして困難極まりない作業だったのだ。

 

最初は、「そもそも(ボルト単体で)ちゃんとはまるのだろうか」と、ボルト自体に疑いを抱いたわたしは、とりあえずプレートから外すとダイレクトにネジ穴へはめてみた。すると、すんなりとはいかないが何度か回すうちにボルトとネジ穴のらせんが噛み合い、スルスルと奥へ入っていった——つまり、ボルトやネジ穴に問題はないということだ。

となれば方法はただ一つ。ソファと連結プレートを互いに平らな状態で維持し、ボルトがネジ穴に届くだけの圧力で押し込み、1ミリでいいから嚙合わせることができたら、あとは六角レンチでゆっくり回せば終了・・いとも簡単な作業である。

そして、自論に基づき黙々とボルトを回すこと3時間。ここでようやく冒頭の場面にたどり着いたわけだ。

 

そもそも、ボルトの先端がネジ穴のらせんに届いていないから、いつまで経ってもボルトはゆるゆるのまま。それは分かっているのだが、先に片方を固定してしまうと、逆側が強制的に届かなくなるリスクがあるため、ほぼ同時に進めなければならない。だが、ある程度の圧力をかけながら押し込まないと、そもそもボルトがネジ穴に届かない。そして、片方がちょっとでもらせんに噛み合った時点で逆側を押し込んでいるのだが、どうやってもクルクルと空回りするだけで、2本のボルトが同時に噛みあう瞬間が訪れない——。

 

こんな不毛な行為は続けるべきではないし、こういった作業が得意な者に頼むほうがよっぽど効率的。そもそも、なにかコツがあるのかもしれないわけで、それが分からずに無意味な行為を続けることほど時間の無駄遣いはないだろう。

そう考えたわたしは、最後の挑戦として「AIに現在の状況を説明し、ヒントを得る」という行動に出た。その結果、わたしでも考え得る当たり前な回答しか得ることができず、完全に行き詰ってしまったのだ。

 

だったら止めればいいものを、病気であるわたしは無心にボルトを回し続けた。それが永遠に噛み合うことのない、完全に無駄で無意味な行為であることを承知の上で——。

 

 

・・とその瞬間、急に2本のボルトの動きが止まった。そう、ついにネジ穴のらせんと噛み合ったのだ。

わたしとしては、ただひたすら無心でねじ込んでいたつもりだったが、もしかすると無意識に学習していたのかもしれない。いや、単に偶然タイミングが重なっただけだろう。それでも奇跡は起きたのだ。

そして、調子に乗った者ほど止められないのがこの世の常。もう一か所のプレートも見事に固定したわたしは、「もう二度とこの作業だけはやらない」と固く誓った。

 

今もなお、赤く腫れてジンジン痛む指先を見つめながら、「これが偶然という名の奇跡だったとしても、こんなところで運を使い果たしたくはない」と、むしろ忌々しい思いと後悔に駆られるわたしなのであった。

 

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