(これは、わたしが悪いのだろうか・・いや、どう考えてもわたしは悪くない。というか、むしろ自作自演に近い運の悪さであり、自身の薄幸を恨むべきだろう)
などと思いつつも、半ギレの山姥(やまんば)に睨まれる哀れなわたしなのであった。
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事の発端は、南北線にて”とある女性”がわたしの隣へ座ったことだった。
ちなみに、なんなら女性はこの時点で他の席を選べばよかったわけで、元から着席していたわたしに非はない。後から乗って来た彼女が自発的にそこを選んだのだから、自業自得だということを強調しておきたい。
その女性は、肩甲骨の下くらいまであるロングヘアをなびかせていた。だが、髪の毛が傷んでいるためフワフワと浮いており、そのフォルムは「杉の木」を彷彿とさせた。
そのため、隣に座るわたしの肩——タンクトップゆえに肌がもろに露出している強靭な肩や腕に、彼女が頭を動かすたびに髪の毛がサワサワと触れるため、くすぐられているようで痒い。しかしながら、杉の木のように広がった髪の毛を物理的に避けるのは不可能であり、変に気を使わせるのも申し訳ないので、あえて掻いたりせずに我慢していたのだ。
杉の木の前には彼女の友人が立っており、先ほどからずっとおしゃべりをしているのだが、杉の木が興奮すればするほど枝葉は激しく揺れてわたしの肩や腕を撫でる——あぁ、鬱陶しい!!
当の本人にしてみれば、「まさか自分の髪の毛が、隣人のエリアを侵害している」などとは思いもしないだろう。なんせ、神経の通っていない皮膚の一部、しかも痛んでヨボヨボになっているタンパク質・・というか老廃物が、主(あるじ)の意向を無視して勝手にこちらへ触手を伸ばしているのだから——。
そして、意図的に攻撃を仕掛けていない以上、こちらも大人な対応を迫られるのが当然のこと。たかがこんなことで「ちょっとアンタ!このヨボヨボで鬱陶しい髪の毛が邪魔なのよ!!」などと叫んだりしたら、それこそわたしが”ヤベー奴”である。
だからこそ、スマホの画面に集中し——といっても、たまに視界の端に髪の毛がフラフラと入ってくることで、集中力が途切れそうになるのだが——どうにか苛立ちを抑えていた。
(たしかに肌はくすぐったいが、異臭や悪臭を放たれる不快さに比べればどうってことはない。電車を降りるまでの間の辛抱だ)
そんな折に、杉の木が立ち上がろうと腰を上げた。そう、彼女の方が先に電車を降りることになったのだ。
そして、「よかった、これで髪の毛の攻撃から逃げられる!」と思ったのも束の間、なんと、杉の木がこちらへ倒れかかってくるではないか!!
原因は、杉の木の枝葉——すなわち女性の髪の毛が、わたしのバッグの持ち手に絡まっており、立ち上がった反動でグイッと引っ張られたのだ。
髪の毛が長いことと傷んでいること、そして小刻みに頭を動かしながらおしゃべりに夢中になっていたことで、いつの間にか緻密に編まれた蜘蛛の糸のように絡みついた髪の毛。それに気づかず席を立とうとした杉の木は、思わぬしっぺ返しをくらったわけだ。
こちらからすると、自ら張り巡らせた罠に自らハマったようなもので、多少は可哀そうな気もするがおよそ滑稽である。さらに、「何すんのよ!?」と言いながらキッと睨みつけるその顔は、オブラートに包んだ言い方をしても「ブス」としか言いようのない醜さだった。
「いやいや・・勝手に絡みつけといて、その言いぐさはないでしょ」
と、半笑いで返すわたしになおさら腹が立ったのか、焦りつつもバッグの持ち手に絡みついた髪の毛をほどく姿は、まるで山姥(やまんば)そのもの。
そして、どうにかこうにか髪の毛を解きほぐすと、人混みをかき分けて慌てて電車を降りる杉の木とその友人。とりあえず、降車に間に合ってよかったね——。
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ロングヘアの女性に告ぐ。
いくつになっても、髪の毛の手入れは怠らぬこと。そして、混雑する場所では束ねておくことをお勧めする。











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